約 15,615 件
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/715.html
魔女式航空研究部 通称「魔女研」 5年ほど前に航空研究部から派生して生まれた、「魔女」で構成された集団 新人五人合わせても15名の部活だが、珍しい飛行能力者ということで学園側からの援助も大きい とはいえ基本は身一つで飛ぶ魔女なので、広い部室や更衣室、トレーニング機器といった方面に予算は使われている オカルトチックな印象とは裏腹に活動内容は体育会系。基礎体力作りはみっちり仕込まれる 日々の活動は体力作りと飛行訓練に座学。航空支援という立場からちょくちょく他の異能者への協力にかり出されているので全員が揃うことは少ない 恋愛は自由。むしろ交遊は積極的に広めることが部の方針 基本的に体育会系部活動のノリなので結束は硬い 異能としての魔女 異能の発現に特定のアイテムを必要とする「条件付き発動タイプ」の飛行能力 帚に跨がることによって力場を形成し、それごと重力や慣性をある程度無視して空を飛ぶ 魔女の異能は分類すると、超能力系の念動力にあてはまる。いわゆる魔術とは別のもの【異能力研究室4】を参照 未発達な飛行能力の発現をアイテムを使用することによって制御している 誰でも知っている「帚にまたがって飛ぶ魔女」のイメージがその条件付けの鍵 ぶっちゃけ思い込みによって曖昧だった異能を、出来ることを明確にして制限しようというもの 歓迎会で派手なパフォーマンスをするのもそのため。こんなことができるようになるんだよ、と手本を見せて「洗脳」する 帚も三角帽子もマントもかたちから入るためのツール。魔力という言葉もイメージのために使っているだけ。「魔女の宅急便」は必見資料 特にその辺りの技術は本物の魔女である柊キリエの得意分野。雰囲気作り、プラシーボや催眠といったことは魔術の範疇 当人達もその辺はちゃんと知っているが、それでも自分達を誇りをもって「魔女」と名乗る 飛行性能については個人差が大きく、高速飛行特化もいれば重量制限なし(帚に乗れるだけという条件はある)という輸送型もいる 飛行時には光の尾をひいて飛ぶが、それは魂源力の光で資質のある者にしか見えない。その色が違うのには個人差があるが特に理由はない 超音速で飛行できるのは現在部長と副部長の柊キリエの二名だけ(瀬野葉月は一度だけ成功している) 平均的な魔女の場合、単独飛行で巡航速度は500キロ。遅い者でも300キロは出せる 魔女になるための条件 『未発達な飛行能力者であること』 魔女研の創立目的が、当時複数いた制御困難な飛行能力を持つ少女達の救済が目的であったことから きちんと飛べるのなら魔女になる必要もない 『女性であること』 魔女はイメージの固定化、思い込み、刷り込みによって異能を制御することから、帚に乗って飛ぶ=魔女=女性というかたちを維持するため イマジネーションが豊富で柔軟性が高いのであれば男の魔女もアリだが、今の所条件が揃う者は現れていない 新人魔女五名 この春に双葉学園に編入してきたばかり コールサインは光の尾の色から。一時的につけられたものだが、その後も継続して使用されることがある ※葉月以外は下記程度の設定のみ。名無しキャラは基本的に設定作成解放対象 レッド 瀬野葉月 現役魔女に並ぶ飛行能力。一度だけ超音速に成功している ツンデレ 巨乳 グリーン 不安定。バランス型なので慣れればのびるタイプ 委員長系で苦労をしょいこむがニコニコと笑ってこなすタイプ 並乳 ゴールド 旋回が苦手。直角カーブはある意味凄い才能かも お調子者。ムードメーカー 並乳 パープル 加速が遅い。臆病さからか動きが少し遅れる ややおっとり系。口調は丁寧 二番目の巨乳 ブルー 一番遅い。安定感と搭載量は一番高い 無口系。ちびっ子 無乳 葉月がツンデレで孤高を保っていたように見えるが、結局のところ普通の仲良しグループ 今では五人の中では葉月がいじられキャラとしての地位を確立している。四人からすると「ああもう可愛いなぁこのツンデレは」ということらしい シェアについて 部長含めた残り9名については、部長がキリエの親友で超音速飛行が可能という以外はまったくの未設定 一応、それぞれ現役魔女として活躍中であり、学園の防空任務や各地に派遣される生徒の航空支援などで活躍しているということになっている 名無しキャラは基本的に設定作成解放対象 自作品に都合良く使える魔女が欲しいなぁという方は、新人四名に名前をつけたり、新しいキャラを作ってしまって下さい 柊キリエの本物の魔女について 飛行能力者としての「魔女」を設定するにあたり、術者としての魔女、魔術師を否定しているわけではないという意思表示の意味合いを込めての設定です 異能者というより「古来から存在する技術継承者」といった存在で、実際には作中では雰囲気づくりの舞台装置以上とするつもりはありません 「異能者の魔女ってどういう経緯で生まれたんだろう?」というネタに対して 何かに跨がって飛ぶ飛行能力者が本物の魔女というキリエに声をかけたことから始まった、というものでそれが現在の魔女研の部長であるとかの構想です ●魔女研部長 福部長 (モブキャラページに登録すべきものですが、作中に登場していない部分でもあるため、こちらに記載とします) 椎名レイ(しいな・れい) 18歳 女 高等部三年生 身長170センチ 黒髪のロング 魔女研部長 中等部進級直後、現在の親友であるキリエと二人で魔女研を立ち上げた 初等部時代は珍しい飛行能力者ということで航空研に所属していたが、飛行能力をコントロールできない少女達をどうにかできないかという学園側からの依頼を機に独立 キリエとは対照的に物事を感覚的に捉え、計算より感情で動く姉御肌。何事も周囲を巻き込んで大事にするが、終わってみれば最善の結果がでていたというタイプ 興味のあることへの執着は強いが、それ以外のことには怠惰。身内は大事にするが他は割とどうでもいいという厄介な性格 使い勝手の良い飛行能力者である『魔女』が、どこかの部署に取込まれて便利に使われるようなことがないのはレイとキリエの強い身内意識のおかげ とはいえ基本はお祭り騒ぎが大好きなので、魔女研にイベントへの協力を求めればきちんとした内容であれば快く応じる 異能は「何かに乗って飛行する」というもの 『魔女』になる前は自転車やバイク、サーフボードからはては軽自動車に乗って飛行していた。現在は帚に乗るスタイルに限定しているが、能力的には変わらず制限はない 光の尾は銀色。魔女研の魔女たちは全てレイの飛行能力をベースとして作り上げた「魔女式航空術」というもの 感情によるムラっけがあるものの、ダントツの飛行性能と天才的なひらめきによる優れた飛行テクニックの持ち主 自分の帚に「銀星号」という名前をつけている 初等部までは普通の身長だったのだが『魔女』になってからはすくすくと成長し、今ではモデル並みのスタイルと長身でキリエと並ぶと非常に絵になる そのおかけで「胸の大きさが魔力の強さに関係がある」という説が生まれているほど 年下の幼馴染みと交際中。よって久世空太と瀬野葉月の歳の差カップルを応援しつつ煽っている 柊キリエ(ひいらぎ・きりえ) 18歳 女 高等部三年生 身長182センチ 銀髪のベリーショート 碧眼 眼鏡 魔女研副部長 中等部入学と同時に転校してきてすぐに、現在の親友であるレイに声をかけられふたりで魔女研を立ち上げた 一見取っ付きにくそうなクールビューティに見えて、実は面倒見がよく交友関係も広い スパルタ教育だが弟子達をこよなく愛する。部員の育成と心身のケア担当 物事ははっきり喋るが私生活は隠す方。下級生の同性からはモテまくる質 遠野彼方との関係を訊かれると「さて、どうだろうな?」とニヤリと笑って誤魔化すような人 本物の魔女 魔女研の他の魔女たちと違って魔術で飛行するため、光の尾はない 魔女の宅急便のお母さんのように薬作ってたり家庭菜園でハーブ育てたり近所のお婆ちゃん達とお茶会やってたり、後輩からの恋愛相談を受けたりする地域密着型のんびり系魔女 薬学や魔術的知識を身につけているが(双葉学園ルールに従い)どれも超常的な効果を発揮するものではない。きちんと学べば誰でも習得できる技術の範囲。あくまで魔術によって空を飛ぶというのが異能 使い魔に黒猫がいるが、これも魔術的な繋がりをもっていない(あるいは『魔女の使い魔』というラルヴァか)。実質はただの猫でペット扱い レイが魔女研の父、キリエが母といったところ 「キリエは厳しすぎるのよ。もうちょっと優しくしてもいいんじゃない?」 「レイがいい加減すぎるんだ。放任を優しさと勘違いするな。ワタシはちゃんと優しいぞ?」 「なんだかお二人の会話って夫婦の子育てみたいですね」 敵を前にして、レイはまずぶっとばす。キリエは用意周到にとどめを刺すタイプ 「ふふん、おっかしいの。うちの子にちょっかいかけた奴らを許すと思ってるの? ワタシはやるからには徹底的にやるのよ」 「私は仲間には厳しく、敵には敬意を払う。つまり戦うからには全力でやらせてもらうということだ」 (こえぇ。魔女研を敵にまわしたくはないなぁ) 「レイ……そろそろ仕事をして欲しいのだが。キミは部長なのだろう?」 「メンドくさい。部長の補佐をするのが副部長の役目でしょ? キリエやっといてよー」 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1294.html
ラノで読む 自分との闘い 今回の敵は手強い。 俺は太い木の陰に隠れ、じっと息をひそめた。 双葉学園にやってきてから、俺は今までたくさんのラルヴァと戦ってきた。俺の持つ異能は強力で、一撃必殺の光の矢を放つこと。その能力のおかげで俺はこれまで負け知らずで、大怪我も負ったこともない。俺は強い。矢の出力を最大にすればダイヤモンドの塊だって簡単に吹き飛ばせる。これは驕りではなく事実だ。 だが、その自信も今や風前の灯になっていた。 もうかれこれ三時間はこの森の中で奴と戦っている。 そいつは突然どこからか現れ、いきなり俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。初撃を避けられたのは奇跡だ。 双葉学園の任務で、俺はS県のある山に来ていた。そこで目撃されている正体不明のラルヴァを倒すため、非戦闘員も含めて十数人の人間がこの森に導入された。だが俺以外の生徒や、プロの異能者、連絡員、救護班も全員消えてしまった。だが普通に考えてはぐれたのは彼らではなく俺のほうだ。おそらく他の連中から引き離され、一対一の勝負を挑まれたのだ。 しかし、ただのラルヴァが相手ならこんなにも苦戦することは無かっただろう。 俺の目の前に現れたそいつは、“俺”だった。 まったく同じ姿をした|俺自身《、、、》だ。 いったい何を言っているんだと思われるだろう。だが俺は見たままを言っているだけだ。そいつはまるで鏡合わせのように自分にそっくりだった。いや、鏡合わせなら左右反対になるはずだが、そいつはほくろの位置も完璧に一緒だ。 推測するならば、それは俺の姿をコピーしたラルヴァだろう。ドッペルゲンガーと呼ばれる人間の姿を真似るラルヴァはすでに確認されている。ならばその亜種としてこのようなラルヴァがいても不思議じゃない。 だが厄介なのは、そいつは姿だけではなく、俺の能力と戦闘センスもすべてコピーしているということだ。だが幸い、奴のコピーが完璧なおかげで自分自身の思考を読むことで、相手の行動を推測することができる。だがそれは向こうも同じなのだろう、そのせいで三時間も拮抗状態が続いてしまっているのだ。 長期戦になれば俺のほうが不利かもしれない。たとえ奴が自分と同じ体力だとしても、精神力に違いは出るだろう。人間の集中力には限りがある。だがラルヴァがそうとは限らない。それに空腹、睡眠、排便。人間の体は不便にできている。戦いが長引けば長引くほど、俺の負ける確率は高まる。 決着をつけるならばこのタイミングしかない。 最後になるかもしれないと思い、俺は空に輝く満月を見た。とても綺麗に輝いていて、気分が高揚してくる。 俺は魂源力《アツィルト》を掌に集中させる。体中の魂源力を凝縮させ、凄まじいエネルギーを秘めた光の矢へと変換していく。木から顔を出し、森を見渡すと、前方にこの矢と同じ光を放っているのが見えた。どうやら奴も光の矢を作り出しているようだった。 俺はわざと光の矢の輝きを強くした。 そうすることで奴に俺の居場所を伝えるのだ。 なぜそんなことをするかって? 気が狂ったわけじゃないぜ、奴をおびき出して隙を突くのだ。 すると向こう側の光が一瞬激しく輝いたと思うと、無数の光の矢が前方から飛んできた。その直撃を受けぬよう俺は体を屈めながら前方へ走っていく。奴が放つ光の矢は、周りの木々を吹き飛ばし、爆風がおれの背を押していく。舞い散った土や泥が体に降り注ぐがそんなことは構っていられない。しばらく走ると、ようやく奴の姿を再び拝むことができた。 「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」 虚ろな目をした間抜け顔。俺の顔がそこにあった。俺は矢のエネルギーを圧縮し、奴に照準を定める。 だがなぜか奴はもう攻撃をやめていた。 だらんと力なく肩を下ろし、諦めたように俺のほうを見つめている。情けない顔は最強の俺には相応しくない顔だった。 俺だったらどんな状況でも生きることを諦めない。 絶対に敵を仕留める。 情けもかけないし、容赦もしない。いや、もう矢は俺の手から離れ、奴のほうへと飛んでいっている。もう攻撃を止めることはできない。 光の矢は高速で奴の体を貫いた。その瞬間奴の体は弾け、赤い血が四方に飛び散る。まるで人間と同じような赤い血。自分と同じ姿をしたものが肉塊へと変わっていく様を見るのはなんとも言えない後味の悪さがあった。 その直後、激しい光が俺を包み、気がつくと森の入口へと戻っていた。 声が聞こえる。 振り返ると心配そうな顔をして、学園の仲間たちが俺のほうへと駆け寄ってきていた。やはり予想通りはぐれていたのは俺のほうだったようだ。安心して思わずその場にへたり込んでしまった。疲れた。もう一歩も動けない。 俺は今回も生き延びた。 俺は強い。誰にも負けない。 自分自身をも乗り越えた。 今回の事件を経て、俺は一回り成長できた気がする。 それから約一ヶ月後。 俺は再びこの森へと足を踏み入れた。 「この森には正体不明の強力な磁場が発生しているようで、時間の断層のようなものができているようだ。そのため迷いの森へとなってしまっている。その調査に向かってほしい」 そんな任務を受け、俺はこの因縁の地へとやってきたのだ。 いったい何が待ち受けているのかわからない危険な任務だが、自らこの任務に参加を決めた。 なぜだがわからないが俺はここにこなければならない気がしたからだ。 俺自身と戦った、記憶に残る場所だからというだけではないような気がする。 しばらく森の中を歩いていると、あの時と同じようにほかの調査班のメンバーと別れてしまった。 だが予想通りだ。ここまでは前と同じだ。 この森の奇妙な空気感、一ヶ月と何一つ変わらない。ざわざわと鳥肌が立つ感覚。全身の皮膚の触角が研ぎ澄まされていく。 そして、俺は森の中にまたもありえないものを見た。 また、そこには“俺”がいた。 生きていたのか。それともまた別の個体か。俺の姿をコピーしたラルヴァ。そいつが数メートル先で歩いているのが見えた。不思議なことに 奴は俺に気づいていない。これはチャンスだ。 前回は先手を取られたが、今回は初撃で総てを決めてやる。 俺は掌にエネルギーを圧縮し、光の矢を生成する。だが、その一瞬の光で奴は俺のほうに気づいた。そしてとっさに跳躍し、矢を避ける。さすがは俺のコピー。ナイスな判断力だ。 その刹那、俺と奴の視線が交差する。 それすらもあの時の再現のようだった。 奴は俺のほうへ矢を放ちながら距離をとって後退していき、森の闇の中へと消えていった。だけど逃がすものか。一度は勝てたんだ。今回も倒してやる。 それから三時間ほど攻防が続いた。 一度倒したとは言え、やはり自分自身が相手となると一筋縄ではいかない。 ふうっと岩に腰を下ろしながら俺は一息つく。ふと上を見上げると、月が真上にあった。おかしい。この森に入った時にはもう月は落ちかけていた。時間的にそろそろ夜が明けてくるはずだ。 そう不思議に思い首を捻っていると、数十メートル前方から、激しい光が漏れているのが見えた。 間違いなく光の矢の輝きだ。馬鹿め、自分から居場所を教えているようなものだ。 エネルギーの出力を抑え、俺は光の矢を複数生成する。下手な鉄砲も数撃てば当たるはずだ。これは前回倒した偽者がしていたことの真似だ。まったく、偽者の技術を本物が真似るなんて皮肉なものだが、生き残るためならそんなことは気にしていられない。 奴がいるであろう場所へ、俺は無数の光の矢を放つ。 木々が吹き飛び、土が舞い上がっていく。だが驚いたことに奴は光の矢を避けながらこっちへと向かってきていた。 俺は素早く光の矢を作り出し、奴へと照準を合わせる。 だが、向かってくる奴を見て、俺は奇妙な|既視感《デジャブ》を覚えた。 この状況、どこかで見たことがある。 まてまて、これはこれはどういうことだ。 そう頭の中で考えているうちに、奴はもう俺の前に迫っていた。奴はエネルギーの凝縮された光の矢を俺のほうへと向けている。 「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」 奴はそう叫んだ。 俺とまったく同じ声で。あの時の俺と同じセリフを吐いた。その燃えたぎるような熱い目は、間違いなく俺自身のそれであった。 そのわずかな一瞬の間に頭の中である仮説が浮かび上がる。 時間の断層がある森。そう、ここは時間がズレた場所なのだ。 この森で目撃されてきたラルヴァの正体。 俺が今戦っている敵が何者なのか。 いや、一《、》ヶ《、》月《、》前《、》に《、》俺《、》が《、》戦《、》っ《、》て《、》い《、》た《、》敵《、》が《、》何《、》者《、》だ《、》っ《、》た《、》の《、》か《、》、俺はすべてを理解した。 (了) トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/315.html
ラノで読む 1999年7の月というのは、かの有名なノストラダムスの大予言にある「恐怖の大王」が君臨する時だったらしい。「らしい」というのは、当時あたしがまだ7歳で、そんな話を聞いたことが無かったからだ。 けれども、その日……恐怖の大王ではない何かが、あたしの人生を根底から動かしたのは、否定しようも無い事実だ。 世界中で「これこそ恐怖の大王だ」という話はあったらしいが、あたしはそうは思わない。 だって奴らは、幸せのうちに統治する、なんて事はしないから。 【金剛の皇女様】 Capture 0 「1999年7月某日」 草原の真ん中に、目をつむって立っているあたし。 黒い何かでべっとりと汚れてしまった、お気に入りのワンピース。 身体のあちこちを噛み切られて、いたるところに伏している複数の人影。息をしているのも、していないのもあるけど、どちらにせよ長くは持たないと思う。 そして、あたし達を取り囲む三つの黒い獣。 口から血を滴らせて、そこだけ真っ赤な獣。イヌかな、オオカミかな。どちらにしても、こんなに真っ黒いはずは無い。まるで、お月様が出ていない夜の、森の中みたいに黒い獣。 『わけが分からない』 『このまま死ぬのはイヤだ』 普通だったら、そう思う場面なのかもしれない。 けれど、あたしは確信していた。 『つぎに目をあけたときには、ぜんぶおわってる』 轟音と共に、獣のうちの一匹が吹き飛ばされる。放たれたのは単なる鉛球で、悪魔を殺すことはできない。 それでも、こいつらには十分だったみたいだ。一匹はもう動かない。驚いた二匹は、あわてて逃げていく。 「なんてこった……」 「おい、そこの君! 大丈夫か!!」 あたしが得意じゃないほうの言葉で、誰かが呼びかけてくる。 『うん、大丈夫』 そう返事をしようと思ったけど、すごくねむくって、そのまま倒れこむ。 もう、だれもおこしてくれないのかな、と思いながら。 「……なつかしー……」 それほど柔らかくない布団に包まれ、似たような枕に埋もれて、あたしは目を覚ます。 最近めっきり見なくなった、昔の夢。 あまりに衝撃的すぎて、忘れようとする努力すら無駄な出来事。 あたしの人生を決定付けることになった、夏の日の悪夢。 枕元に置いていた目覚まし時計に目をやると、まだセットした時間ではない。けど、起きるにはいい時間だ。 「んっ……うーん」 ベッドから上半身だけ起こして、大きく伸びをする。どこかでバキッ、という音が聞こえた気がしたが、気にしないことにする。 「……ててっ。よしっ、今日もがんばろー」 Chapture 1 「少年と女教師」 東京都24番目の区、双葉区。その中心としてそびえる双葉学園は、異能者を育てて怪異を討伐する専門の教育機関だ。とはいえ、育てられている彼等はあくまでも学生である。実際の扱いはともかくとして。 今、高等部の校舎内を爆走している彼、錦龍《にしき りゅう》も、それは同じことだ。 「間に合うっちゃ間に合うけどよ……!!」 ホームルームまであと2分。今居る1階中央口から、クラスがある3階までは彼の足なら1分で行けるだろう。そう信じて廊下を走り抜ける。 壁際を駆けている際に何かと接触したような衝撃が走るが、多分壁だろう。気にしないで階段まで加速、三段飛ばしでそれを駆け上り、手すりに捕まって無理やり方向転換。そんな事を繰り返しながら、まだ開いているドアから教室に滑り込む。 足下からホコリが舞い上がるほどの勢いがついてしまい、止まれない……と思った瞬間には、誰かに足をかけられていた。 「のわ、たぁぁぁぁ!!」 龍はそのまま派手にスッこけ、まるでブレイクダンスをしているかのように壁際まで一直線に転がる。幸い壁へ衝突とはならず、壁際でビタ止まりする。 「よードラ、重役出勤ご苦労さん」 「うっ、せぇ、トラ、すき、で、やって、ん、じゃ、ねぇ……」 足を引っ掛けた張本人である中島虎二《なかじまとらじ》が椅子越しにこっちをニヤニヤ覗き込んでいる。周りからはクスクスとかワハハとか笑い声が聞こえる。彼等にとってはいつもの事だ。 錦龍と中島虎二は、幼稚園からの幼馴染。いわゆる、腐れ縁というものだ。スポーツマン然とした風体で、今でも空手を続けている龍と、中世の貴族然とした(現代の人間がイメージする)美形であり、勉強は出来るが運動神経ゼロの虎二。正反対なところが良かったのか、不思議と馬が合った。 あまつさえ、両者に稀有な『魂源力』が備わっているという。それが縁で、この双葉学園高等部に編入する事となり、またもや同じクラス。腐れ縁は今も絶賛継続中だ。 編入されてから三ヶ月、龍は『異能』の使い方をあっさり掴んだ。一方の虎二は未だそれを掴んでいない。その代わり、勉学に関して龍は、虎二の書くノートに頼りっきりだ。 そういう意味では、相変わらずバランスがとれている。 なお、互いのことを「トラ」「ドラ」と呼び合うが、昔アニメ化してた小説はあんまり関係ない。というか両方とも男だ。 「そろそろ座らないとせんせーさんが来るっすよ?」 「わーってる、と!」 誰かの声に反応し、ひっくり返った状態から身体のバネだけで起き上がる。軽く虎二の方を睨むが、完全にスルーされる。憮然とした表情のまま自分の席に着き、学生鞄から諸々の勉強道具を取り出す。あんな状態でも鞄だけは手放さなかったのが不思議だと思ったところで、学内に予鈴が鳴り響いた。 学生の本分である、勉強が始まるわけだ。 予鈴が収まると同時に教室前面のドアが開き、黒いファイルとプリントを抱えた女性が入ってくる。 背の丈は成人女性にしてはやや低め。それだけならば良いのだが、それ以外が問題。 水色のチェニックにロングスカートという服装、童顔な上に黒髪を顔の両側からお下げにし、さらに起伏がほとんど見られない痩せすぎのボディライン。なお、近くで見ても顔にシワは見えない。 制服を身に着けていないという点で中等部、高等部生徒でないことは明白だが、かといって大学部の学生にも見えない。流石に初等部は有り得ない。 クラス委員がやる気がない起立、礼、着席をこなし、再び全員が着席したところで、女性が口を開く。 「おっはよー。今日も一日がんばろー。それじゃ出席とるよー」 そう、彼女が双葉学園高等部1-B、通称「鋼のB組」担任、春奈・C・クラウディウス《はるな・クラウディア~》、27歳。 日英ハーフであるという話だが、容姿を見る限りはいたって普通(幼く見える所も含めて)の日本人女性である。 あまりに似合わないファミリーネームの為、学生からは「春奈先生」「春奈ちゃん」もしくは「せんせーさん」で通っている。 教養の担当学科は現代国語、それとは別に高等部の異能力学科で『初級ラルヴァ知識』、及び『集団戦闘』を受け持っている。 黒い表紙の出席簿と首からかけている教員証を除いては、教員らしい外見要素はゼロである。実際大学部を歩くと間違えられる。 「そうそう、錦くーん……」 出席をとり、各種の連絡事項が終わったところで、声をかけられる 「はい?」 「遅刻しないつもりなのはいいけど、ちゃんと周囲を見て歩こうね……」 ぷるぷると肩を震わせている春奈を見て、一瞬で思いだす。さっき疾走していたとき衝突した感覚は…… 「! す、すみません!!」 「……まあいいや、他の人にはやらないように。それじゃホームルームはここまで。また午後にねー」 手を振りながら教室を出て行く春奈を見送り、教室内がにわかに騒がしくなる。 頭を抱えて座った龍の後ろから、虎二がペンでつっつてくる 「おいドラ、何やったんだよ」 「……多分、今朝の接触事故相手だ」 「側面不注意でマイナス1点だな」 「何が」 午前中の授業を、龍はあまり覚えていない。一般学科ばかりであった事と、今朝の全力疾走による疲労が堪えたのか、見事に熟睡だった。 絶妙のタイミングでフォローを入れてくれた虎二に感謝をしなくてはいけない。 「さあ、感謝の気持ちを伝えるには最適、昼メシの時間だ!」 「イヤに即物的だな」 昼休みの学食は、当然のように混む。学園は非常に広く、学食も複数存在する。さらに建物の外には学生向けの飲食スポットもあるのだが、やはり学食は目玉スポットであり、味や値段にバラツキはあるものの、どの学食も非常に込み合う。 「なーにをおごってもらおっかなー」 「俺がおごるのはA定だけだぞ」 そう言いながら、虎二にチケットを渡す。サンキューという言葉を残してとっとと先に行ってしまった。 高等部棟近くで一番の人気メニューであるAランチ。俺達はA定と呼んでいるが、定食と略す割りにメニューは日替わりだ。支給される学食のチケット一枚で頼めるのも好印象。券売機に並ばなくてすむ。とは言え、今日の龍はA定という気分ではない。ぶらぶらと券売機の方に向かう……と、微妙に混雑している。 「……先生、何やってるんすか」 「あ、錦くん? ……いやね、どっちにしようかなって」 混雑の原因は春奈先生。券売機の前で財布の中身とにらめっこしている。 彼女の視線の先にはカレーライスのボタン。どうやら『普通』と『大盛』で悩んでいるらしい。 「ダイエットでも?」 まず有り得ないと思うが、一応聞いてみる。彼女にそぎ落とす肉があるとは思えない。 「まっさかー。手持ちが少ないんだよ……」 とほほ、という表情と共に財布の中身を見せる先生。確かにこれでは、大盛を買ったら缶コーヒー一つまともに買えない。面倒だったので、券売機に大盛カレーの金額(310円)を突っ込みボタンを押す。 「……!?」 「これで、朝の事はチャラってことで」 「うわ、ほんとにいーの!? ありがとー!!」 飛び跳ねそうなくらいキラキラした表情を見せ、出てきた券を大事そうに持って歩いていく。 「給料日前だったっけ?……手持ち少なすぎだろ」 愚痴をこぼしながら列の最後尾に向かう。この長さだと何分かかるやら。 午後の授業は、五限目、六限目と春奈先生の授業が続く。前半は現代国語、本日の一般科目ラストだ。 「~という所までを、中島くん読んで」 「ちょ、せんせー! 今まで席順で指してたのにドラはスキップですか!?」 「ふふふ」 「ふふふ、いいから読みなさーい」 しぶしぶ立ち上がった虎二が、一連の文章を読み終える。 「さて、今中島くんに読んでもらった文で、明らかに主語と述語の関係がおかしかった部分があります。 ……錦くん、それはどこでしょう?」 「フェイントですか先生!」 後半は『初級ラルヴァ知識』。異能力学科のため、周りの目も比較的真剣だ。ただ、今の授業内容は「ラルヴァが持つ知能のレベルについて」であり、対ラルヴァ戦で既に活躍しているような一部生徒には、退屈ともいえる内容である。実際、約一名が熟睡している。 「加賀杜さーん、ちょっとまじめな話しますよー」 「ふぇ?……あ、ごめんなふぁい……」 「実際、今までの所は、もう知ってる人も結構居たでしょうからね……少しだけ、話を変えましょう」 先生が教本をパタン、と閉じる。 「さっき話したとおり、ラルヴァの中には人間を超える知能を持った個体も存在します。ならば、人類がラルヴァに対して持っている、明らかに優れたものは何でしょう?」 春奈先生の質問に、一同が考え始める。なかなか答えが出ないのを見たのか、ヒントを出す。 「もっと突き詰めて言うと……人類とラルヴァの大規模戦闘、いわゆる『悪魔の軍勢との戦い』では、人類は未だ負けなしです。局地的に負けていても、必ず巻き返し、失地回復をしています。どこかで負けてたら、多分大陸の一つは持っていかれてたでしょうね。……さて、なぜ負けないのでしょう?」 ヒントは数人を混乱させた一方、別の何人かがピンと来た顔を見せ、その中から一人が挙手する。 「姫川さん、どうぞ」 「はい。メンバーの連携……チームワーク、ですか?」 彼女、姫川哀は、同じクラスの伝馬京介、氷浦宗麻の両名と共に、ラルヴァ討伐チームの一員として活躍している。その回答に歓声が上がるが、先生の解説で、再び沈黙が訪れる。 「チームワーク……惜しいですね。数匹単位では、狩りの本能を利用して集団戦を仕掛けるラルヴァは存在します。でも、方向性は間違っていません……もうちょっと、視野を広げてみましょう。 数十から数百単位、あるいはもっと大規模な戦闘では、個々の能力はもとより、全体の戦況を見通した戦術、さらには戦略が要求されます。人類には、数千年前から繰り返し繰り返し培ってきた、戦術、戦略があります。ダテに身内で争っていた訳じゃないですね。組織だった異能者の育成が遅れ、不利な人類側が勝ってこれたのは、これらの積み重ねがあってこそ、です。それらを駆使するラルヴァの指揮官的存在は、現在確認されていません。高い知能を持つラルヴァでも、自分の能力を過信したり、集団戦の指揮に慣れていなかったり、というのが多いですね。 ……逆に言うと、ラルヴァが戦術、戦略を駆使するようになってからが、本当の勝負なのかもしれません。 大学部では、異能に関する歴史を研究する学科や、対ラルヴァ戦に特化した戦術を研究する学科もあります。興味がある人が居たら、資料を取り寄せておくので、言ってくださいね」 そこまで話し終えたところでチャイムが鳴り、教室がため息で包まれる 「お、ジャストで終わったー……せっかくですし、とっととホームルームやりましょうか」 「よっしゃ、終わりー!!」 ホームルームも終わり、教室が開放的な空気で満たされる。適当にダベッている者、クラブ活動や委員会の活動に移る者、早々に帰る者。龍はその真ん中、空手部の活動に出るため早々に教室を出ようとする。 「おーいドラ、お前はいいなー、やれる事があって」 虎二が少し羨ましそうに、出て行く龍に声をかける。 「お前も何か見つけろよ、俺より頭いーんだから、そっち方面で行けって」 軽口を叩きながら、龍がそのまま教室を後にする。 「……なーんか、ありゃいいんだけどなぁ……」 Chapture 2 「Before1999の憂鬱」 高等部職員室で赤ペンを走らせていると、これが本当の職業じゃないか、という気がしてくる。 実際に教師は本職であるが、それとは別に、異能の力など関係ない、ただの一教師として……あの1999年が無ければ、そんな未来も有り得たのだろうかと、感傷に浸ることもある。 「……ふう」 小テストの採点が一息つき、テーブルに置いた飲みかけの缶コーヒーを一気にあおる。錦くんに昼食をおごってもらったおかげの一本だ。重ね重ね彼には感謝。そうやって息を抜いた後、春奈は引き出しからプリントを取り出す。 彼女が担当するクラス、1-Bの生徒32人の名簿であり、名前の横に数字、もしくは文字『特』『無』の文字が振られている。 そのプリントとしばしにらめっこしていた彼女だが、横に座っている同僚の木津先生から声をかけられる 「春奈先生、そろそろ向かわないと間に合わないんじゃないですか?」 「ウソっ! もうそんな時間!?」 そんな風に声をかけられて時計を見ると、約束の時間まで一時間ちょっと。バスの時間まではあと数分も無い。 「ありがとーございますっ!!」 慌ててプリントをバッグに突っ込み、そのバッグを掴んで駆け出す。 「……自分のスケジュールを把握されてて違和感を覚えないって、鈍感すぎ」 慌てて出発直前のバスに駆け込み、揺られること一時間。そこから少し歩いた住宅地に、その建物はある。一見普通の和風建築、だがその中が魔窟と化していることを彼女は知っている。 「どうぞ、お入りください」 メイド服の少女に案内され、家の中に入る。迂闊に足元の物を踏まないように注意し、奥の部屋へ向かう。 「クラウディウス先生をお連れしました」 『……? ああ、春奈先生ね。入ってちょうだい』 扉越しに声をかけられ、先ほどよりもより注意し、物が溢れた一室に入る。 「久しぶり~、元気してた、那美さん?」 「まあまあって所ね。あなたこそ、全然大きくなってないじゃない」 「それはほっといて……お願いだから」 異能、特にラルヴァ研究者である彼女、難波那美とは、同い年という事もあり懇意にしているが、それだけではない。 『似たもの同士』 互いに1999年、運命を捻じ曲げられた者としての共感があるのだろうか。 「へぇ。高校からの編入で、未覚醒者が半分ぐらいだったのに、もう大半が使いこなせてるの?」 「あたしは何にもしてないよ、みんなの飲み込みが早かっただけ」 大まかな能力概要とレベルを書いた生徒名簿(名前の部分は、念のため仮名にしている)を見せ、今後について相談する。 「それで、これがチーム分けね……強能力者と目覚めたばかりとのツーマンセルね。まあ、こんな所じゃないかしら。能力詳細知りたいとこだけど」 「流石にそれは、プライバシーがあるから」 だいたいの能力とそのレベルは学園の機材で調査されているが、それで分からない部分も多々存在する。そこのあたりは互いに信頼し、自己申告で確認している為、迂闊に洩らすことは出来ない。 「さて、次はあなたね……準備いい?」 「バリウムみたいなのはダメ、今日はたくさんお昼食べたから」 「んなもの使わないわよ」 「……最近、能力使ってないでしょう?」 「まーね、使う機会ないし」 「そんなに頻繁にあっちゃ堪んないから」 「那美さんはその点、基本は単純だからねー。活躍は聞いてるよ」 「まあ、そこら辺は適当にやってるわ」 検査が終わり、春奈がチェニックを羽織る。 1999年に発生したラルヴァの大量発生、その前後に異能に目覚めた能力者は、色々と特殊な力を持つという。那美の『荒神の左手《ゴッド・ハンド》』は、その圧倒的な破壊力と、能力の発現原因(伏せられているが、ラルヴァに寄生されているという噂がある)という点で異彩を放つ。 一方で、春奈の『ザ・ダイアモンド』は、いちおう超能力派に分類されるだろうが、その使用法が極めて異質である。 「で、あなたの力、ようやく原理が掴めてきたところだけど……応用範囲無限大ね、これ」 「ヘタに応用しようとしたら、あたしの居場所無くなっちゃうって。ただでさえアレなのに」 春奈は苦笑いを浮かべ、バッグを抱えて立ち上がる。 「もう帰るの?」 「あんまりノンビリしてると、バスなくなっちゃうし」 「ん、じゃあまた……一月後くらいにね」 軽快な足取りで部屋を出て行く春奈の後ろ姿を見つめる那美の目には、少し呆れが混ざっていた。 帰りのバスに揺られながら、春奈はノートを広げる。中には、古今東西、史実フィクション取り混ぜた様々な『戦い』の記録が記されている。 「……うーん……」 何かを考えながら、ノートにシャーペンを走らせ、何かを書き加えている……これで、降りるバス停を乗り過ごすのは、日常茶飯事だ。 後編へ トップに戻る 作品投稿場所に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1445.html
ラノで読む ピ○ニック それは、昭和五十六年から販売している乳製品の名称である。ブリックパックと呼ばれる直方体容量二五〇ミリリットルの紙容器にポップな書体でPiknikと記載されたパッケージングの飲料は、誰もが見知ったものであろう。 というのも、形状からくる運搬性の良さや密封性による長期保存が可能なこと、可燃ゴミとして処理可能な紙容器であること、また、二五〇ミリリットルという昼食の飲料として飲み切りやすい容量などメリットが多く、学校などの公共施設の売店などで販売されることが多いからだ。 多分に漏れず、当校の購買部でも購入可能な飲料の一つであり、昼食時にはパンを片手に生徒が口にするのを皆さんも見かけることが多いのではないだろうか? さて、こんなどうでも良い話をしたのにはワケがある。このピ○ニックにはある伝説があるのだ。 恐らく、一部の生徒は聞いたことがあるのではないだろうか? そう、星の数ほどある双葉学園七不思議のひとつに数えられる“幻のピ○ニック”の存在だ。 幻のピ○ニック――。それは入荷日も入荷数も不明で、何味なのはもちろん、どんなパッケージであるかも判明していないという謎のピ○ニックである。 この幻のピ○ニックを奇跡的に入手し、飲み干した人には『好きな人から告白されました』とか『期末試験のヤマが大当たりでウハウハです』とか『飲み干したパッケージを懐に仕舞っていただけで突如として幸運が舞い込むようになりました』とか『飲んだだけで悩みだった身長が五センチ伸びました!!』とか『競輪競馬で大儲け! 幻のピ○ニックさまさまです!!』といったなんとも摩訶不思議な幸運、いや露骨にうそ臭い奇跡が舞い込むという…… 噂である。 まあ、都市伝説に代表されるような根拠が曖昧な噂というものは、基本的には眉唾物であり、尾ひれが付くのは当然で、時には尾ひれや背びれだけでなく、手足まで生えて一人歩きしてしまうもの。 恐らく、この幻のピ○ニックもそういった類のものであり、誰かの勘違いから始まり、フォークロアが辿る流れと同様に伝聞する間により面白く装飾され、時には枝葉を切り落としブラッシュアップされ現在の形になったのだろう。 少なくとも私はそう考えていた。 だが、私は出会ってしまったのだ。幻のピ○ニックを知っているという人物に。 幻のピ○ニックを知っているという人物の情報が私の元に届いたのは今年の十二月の中旬のことである。 十二月中旬といえば、恐らく多くの生徒の懸念だった期末試験も終了し、目前に迫った冬休みに心躍らせたり、クリスマスの予定についてイチャイチャしながら乳繰り合ったり、ソロイベントだけは避けようと血眼になってお相手を探そうとしたり、すっかり諦めモードになり悪意を周囲に振りまいたりと、一年を通して二番目くらいに学園内がドロドロに愛憎渦巻く時期である。 そんな時期にあるツテから情報がもたらされたのだ。 独特の空気感に辟易し、センセーショナルな記事のネタを探していた私にとってそれは渡りに船と言えた。 ただ、情報提供者に直接会うことは叶わず、電話でのインタビューが精一杯とのこと。だが、これでは裏が取れない。間を取り持ち、このインタビューのお膳立てをしてくれた馴染みの情報屋も、情報提供者の人物像を曖昧に口を濁すだけ。なんとも歯痒い。 私は情報提供者と何とか直接接触し、確証を得たかったが、頑として相手の許可は下りなかった。 結局、折れたのは私の方で、先方の指定する公衆電話を通じてのインタビュー、しかも向こうは変声機で声を変えてという非常に用心したものだった。 私は先方に指定された当日、島内のとある公園に設置される公衆電話に足を運んだ。 予定の時間に一秒も遅れることなく、公衆電話のベルが鳴り響き、私を驚かせる。 私は慌てずに受話器を取り「もしもし?」と相手に向かって話しかける。 暫しの沈黙、そして――。 『周りには誰もいないか?』 電子的に変声された音声が耳障りなノイズと一緒に聞こえてくる。電子的に変換されているとはいえ、相手の緊張感が手に取るほどに伝わってくる。この告白は彼もしくは彼女にとって相当な勇気が必要なものだったのだろう。 もちろん私一人だ。 そう答えると、安心したのか大きく息をする音が聞こえてくる。 『では、電話機の下にある封筒を取って中を見ろ』 なるほど、電話機の下にある電話帳を置く棚に大きめの茶封筒がある。私は肩と耳で受話器を挟みながら封筒を拾い上げ、中にあるものを取り出す。それは一枚の写真だった。 これは? 『それは証拠の写真だ。それが幻のピク○ックだ』 私は相手に伝わるように大げさにため息をつく。 理由は簡単だ。その写真というのがなんともピントがぼけて殆ど判別できないような代物だったからだ。 これでは証拠にならない。私はそう言う。 『しかし、それが私には精一杯なのだ。購買部のお姉さんの目を盗んで撮影するのにどれだけ苦労したと思う?』 そんなことは知らない。貴方が苦労しようと、購買部のおばさんが邪魔しようと、こちらの知ったことではない。確実な情報が欲しいのだ。 『――お姉さんだ』 はい? 『おばさんではない。お姉さんだ。ああ見えても、まだ二十代後半なんだぞ』 とりあえず購買部のおばさんの情報は私は知りたくもない。嫌いじゃないが年上過ぎる。 しかし、これでは確証を得られない。もっと有用な情報はないのだろうか? 『なら、明後日の昼休みに購買部にくるといい。保冷機の右隅に一つだけ黄金色に輝くピク○ックがあるはず。それが幻のピク○ックだ。自分の目で確認してみるがいい』 それは入荷するということか? だがこの写真では判断しようがないぞ。 『黄金色に輝くハートのパッケージ。言えるのはそれだけ。あとは何とかしろ。それとおばさんじゃなくてお姉さんだ』 受話器の向こうでガチャリと音がして、電話が切れる。 全く、情報提供者は一体誰なのだろう? 私には全く分からない。ただ、購買部のおばさんの年齢を気にする人なことは確かなようだった。 うーむ、全く分からない。謎の人物だ……。 私がピンボケの写真と僅かな情報を手がかりにして色々と調べるも全てが徒労に終わり、あっという間に情報提供者がいうその日になる。 手元にあるのはピンボケした写真と『黄金色に輝くハートのパッケージ』という不確かなものばかり。 しかもそれが購買部の保冷機の右隅に今日置かれるということだけだ。 だが、確かめざるを得ない。千載一遇のチャンスなのだ。私は自分の能力に感謝する。 私の能力は固定座標の空間を認識から除外する能力。つまり、私が指定した空間は誰も認識することができなくなる。適用空間の範囲は最大でも三メートルで、効果を発動できる距離は十メートルと限定されるが、補助系の能力としてはかなり有用だ。 私は前日、入念に購買部の位置関係を確認し、失敗のないように祈る。 保冷機の右《・》隅だ……。 当日、いつものように人の波が購買部へと押し寄せる。もちろん、全ての生徒がではない。弁当を持参する者もいるし、食堂で済ます生徒もいる。そういった中で、購買部でパンやおにぎり、お弁当を買う人たちがいるというだけだ。 だが、呆れるほどに生徒数が多い双葉学園ではそれだけ分散していても食物の確保は戦争状態である。能力を発動させて他者を蹴散らす馬鹿者どもは殆どいないが、それでも主婦の狩場と変わりない弱肉強食の世界がそこでは繰り広げられる。 四時限目の授業をばっくれていた私は授業終了のチャイムと共に能力を発動させる。これで他者には該当のブツは見えなくなるはずだ。だが、チャイムが鳴り響いた直後にも関わらず大量の生徒が購買部に集まってくる。私のようなさぼり組みはもちろん、テレポーターや加速系、身体強化系の能力者たちが存分に能力を発揮して希望のブツを手に入れようと購買部に集合したのだろう。 一瞬気圧され戸惑ったのが運の付きだった。気が付いた時にはそこは戦場。私の目の前は人《・》山《・》の黒《・》だ《・》か《・》り《・》で一歩も前に進むことができない。だが、能力はすでに発動している。あとは持続時間が終わる前になんとかそこに辿りつくだけだ。 私は幾重にも重なった人の集まりに辟易しながら、その山の中に突入することにした。 これ下さい! 私は、私だけが認識できるように保冷機の右《・》隅のそれを手に取ると、起用に大量の生徒たちをあしらい清算していく“お姉さん”に小銭と一緒に突き出す。 「はい、これおつりね」 そう言っておば……お姉さんは私に籤に外れた人を見るような残念な顔をした。 私は再び人だかりを掻き分け、餌に群れる群集から抜け出ると、大きく胸を撫で下ろす。これで、幾万もあると言われる双葉学園七不思議のひとつが判明するのだ。 鼻息荒く、高鳴る鼓動を抑えつつ、私は手に持ったそれを視界に入れる……。 「明○のブ○ックじゃねーかっっ!!」 私はとりあえず手にした四角い紙容器のそれを床に思いっきり叩きつけることにした。 「で、これを私にどーしろというのだ君は?」 オレンジ色の夕日を背にしながら、目の前にいる人物はそう言ったあとに大きくため息をつくと、机の横にあったゴミ箱に今しがた書き終えた私の原稿の束を無慈悲に放り捨てる。 これでクリスマスの予定も無視して全力でこの記事に打ち込んだ私の苦労は水の泡になった。この取材と記事にかまけて、メールや電話を無視していた彼女からは、ここ数日メールさえ来なくなった。私ではない男子と楽しそうに歩いているところを見たという情報もある。 全く、これは最低のクリスマスの幕開けではないか。手遅れになる前にフォローの電話かメールを入れておくことにしよう。 私の鬱々とした気持ちを無視して、編集長は机の上に置いてあったジュースのパックを手に取り一飲みする。 「あら、これ美味しい!?」 そして、メガネの奥にある大きな目を丸々とさせて、手に持ったパッケージをマジマジと見つめ始める。 それに釣られて私も彼女の手元を見てしまう。だが、彼女の手に隠れて上手くみることができない。指の隙間から見えるそれは私の知らない物のように見える。 「ふーん、また今度買って見ようかしら……」 彼女がそう言ってゴミ箱に捨てた瞬間、後ろポケットに入れていた携帯が振動し、メールが着信したことを知らせる。 私は部長に軽くお辞儀をしてメールを見る許可を得ると、携帯電話を開き、着信メールを確認する。 久しぶりの彼女からだった。 ゴメンナサイ さよなら それだけが液晶に表示されていた。馬鹿ではない私はそれで全て分る。私は振られたのだ。自業自得とはいえ、やはり目の前が真っ暗になり、世の中に絶望してしまう。もう部活を行う気にもなれない、このまま帰ってしまおう。 「と、ところで……森永君?」 携帯に届いた着信メールに打ちのめされ、亡者のごとく今にも倒れそうにゆっくりと鉛のような両足を引きずりながらようやく部室の戸口まで辿り着いた私に声を掛ける。それは部長がいつもの部下を厳しく叱咤するのとは異なる、女性らしいトーンであった。 なんでしょう? 「あの、あのね? 森永君はク、クリスマスとか何してるのかな?」 今しがた自宅でフジテレビの深夜番組に電話をすることに決めましたが? 「そ、そうなの? 予定はないのね。実はさ、私その、と、友達とパーティをするんだけどさ、みんな彼氏付きでね、わ、私も男の人を連れて来いって言われてるの。でも、そういうあてもないから、森永君ならいいなら、一緒にどうかなーって? いや、あの、む無理だったらいいのひょ? だって…ほら、私なんてメガネで地味でいっつも森永君のこと怒ってばっかりだし、それに年上だし……」 彼女は頬を赤らめ、私の方に視線を合わせることもなく、手で髪の毛をいじりながら一方的に話続けていた。 おそらく、そのパーティというのは彼女の友人たちがこうなるように仕掛けたものだろう。告白する勇気のない彼女を無理矢理にでも告白させて、なんとかしようという魂胆に違いない。 しかし、男ッ気のない部長が私に気があるとは日頃の態度からは全く気がつかなった。人一倍厳しく当たるし、事あるごとに小言と嫌味ばかり。もちろん、彼女の一言一言は正しく、校正や企画内容の駄目出しも的を射たものばかりである。 それだけに尊敬こそすれ、女性と見なすことがこれまで出来なかった。 彼女はこんなに可愛らしい女性だったろうか? 頬を染め自分の言ったことに恥らう姿に私の鼓動が早くなる。目の前にこんな魅力的な女性がいたのに気が付かないとは。私の目は曇っていたようである。 ――いや、ちょっと待て。彼女が飲んでいたのはなんだ? 隙間から見えただけだが、まるで情報提供者からのアレのようではないか? チョット待てよ。アレには色々な効果があったはず。いや正確には噂される、だが。 なるほど。そういえば効用の一つに『恋の成就』があったはずだな……。 私は思わず彼女が飲み干したブリックパックの四角いパッケージを確認したくなる衝動に駆られる。 だが、それを私は思いとどまることにした。もちろん、今全力でゴミ箱に走りより、そこに打ち捨てられたパッケージを確認すれば、一緒にゴミ箱に入っていた私の原稿もめでたく没ではなくなり、次号の誌面に掲載されるかもしれない。 それはできなかった。 彼女が捨てたものが、本当に幻のピ○ニックだったら癪だからだ。 ジャーナリストとして、真実を追究する気持ちは揺ぎ無い。でも、そんな呪いのようなもので自分の心が動いたなんてことはそれ以上に思いたくもない。 何故なら、私は彼女の精一杯の勇気を振り絞ったこのお誘いに笑顔で首を立てに振ることに決めたのだから。 これは私の意志である。何より彼女が告白したのも彼女が精一杯振り絞った小さな勇気の賜物だ。 幻のピ○ニックがもたらした奇跡でもなんでもないのだ。 では部長、そのパーティはどちらで行われるのですか? 偶然にもクリスマスは暇なんですよ。 私は彼女の問いにそう答えることにした。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/jinro_hutaba/pages/47.html
~双葉半角人狼鯖~ 【紫炎鯖】http //shien.halfmoon.jp/jinro/jinro_index.htm 最大人数変更可・初日犠牲者あり・実時間選択可・20人から人狼4に アイコンシャッフル、独り言機能が追加され実質メイン 【PHP鯖】http //shien.halfmoon.jp/jinro_php/index.php GM不要、初日犠牲者あり、各種オプションあり、詳しくはルール参照 【メイン】http //nekoaisu.hp.infoseek.co.jp/public_html/jinro_index.html 8人から狼は狂人の判別がつきます ~汝は双葉人狼なりや心得!~ ※初めての方や他スレからこられた方もテンプレによく目を通してください。 ・まず最も重要な事、誰がどの役とかのネタバレは絶対禁止。 ・詳細ルールは「双葉汝は人狼なりや?」ルール説明を参照。 ・用語集・攻略・他人狼スレ、基本的な諸注意などは 2-7あたり ・荒れる事をスレに書き込む人は荒らしです。 ・村・チャットなどスレ以外で起こった問題はスレに持ち込まず スレ以外の発生地で解決しましょう。 ・荒らしは自作自演して自分を優位に見せます。 住民が荒らしをスルーしてる限り、荒れる書き込みは荒らししか書いていません。 ・荒らしにレスする人も荒らしです、スルーしましょう ・マナーとモラルを心がけ、E&E(エンジョイ&エキサイティング)! ・書き込みが950を越えたらその辺りの人が新スレを立てること。 ※村作成は安易にせずにきちんと点呼をとってからにしましょう。 前スレ 汝は人狼なりや?スレ ○○夜目 http //www.2chan.net/test/read.cgi/ascii/xxxxxxxx/ ~関連URL~ ・初めての人はここを読んで勉強しよう(各能力別役割パターン等) http //wearwolf.netgamers.jp/wiki/ ・双葉人狼専用Wiki http //www11.atwiki.jp/jinro_hutaba/ ・雑談・待機用チャット (気軽に入室。雑談や特殊ルールなどに使用。) http //www.geocities.jp/jinrounariya/ ・汝ハ人狼ナリヤ?(人狼リンク集) http //jinro.nobody.jp/ ・人狼-荒神・紫炎鯖ログ-私的保管庫 http //bunnys.ddo.jp/jinro/ ~人数早見票~ 数8 村人5~6 狼1~2 占1(村人は5or6、狼は1or2のランダム、霊能者無し) 数9 村人5 狼2 占1 霊1 狂0 狩0 共0 狐0 数10 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩0 共0 狐0 数11 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共0 狐0 数12 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共0 狐0 数13 村人5 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐0 数14 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐0 数15 村人6 狼2 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数16 村人6 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数17 村人7 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数18 村人8 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数19 村人9 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数20 村人10 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数21 村人11 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数22 村人12 狼3 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 ※紫炎鯖ではプレイヤー20人以上から人狼が4名になります。 数20 村人9 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数21 村人10 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 数22 村人11 狼4 占1 霊1 狂1 狩1 共2 狐1 ~GM(ゲームマスター)心得~ ・GMがプレイヤーとして参加する時は仮GM機能を使うこと! ・村は原則としてスレまたは村内で宣言してから立てるようにしましょう。 ・村立てや開始時間は時間に余裕を持ってスレへ宣言、前もって宣伝 (村人を取り合わないように宣言してすぐに立てない)。 ・乱立した場合は統合すべくスレで話し合いましょう。 ・立てた村には責任を持って最後まで付き合いましょう。 ・使われずにゲームが開始されなかった村はきっちり消しましょう。 (GMは村を作成のところで村を終了を選んで不要な村は消すこと) ・1つの鯖で同時に動かせるのは2つまで。3つめの村は建てないようにしましょう。 ・同じ鯖ばかり使わずに使用する鯖を適度に分散させましょう。 ・荒神鯖での心得 実時間村が1つ稼働中の場合は2つ目以降の村は仮想時間村にする事。 (実時間村は負荷が高いので同時に2つの実時間村はデンジャラスです) 廃村は一番負荷が掛かります。なるべくしないようにお願いとの事です。 ~村民心得~ ・プレイ時間は展開にもよりますが16名で役1時間半、22名で2時間弱かかります 最後までできるかよく考えてから参加しましょう。 ・無駄な『突然死』をさせないようにしましょう。 重要な役に選ばれたりするとゲームが無駄に混乱します。 ・誤って村民登録した際は、ゲーム開始前ならGMに通告することによって村民登録を外せますが、 ゲーム開始後は突然死でしか参加者を消せません。登録自体を抹消はできません。 ~他スレ交流心得~ ・他の人狼サイトに違うスレ・違うサイトの専用村を作らないこと。 (人狼サイトには各々の専用の村人募集スレがあります) ・村を作る時は、その人狼サイトの専用スレで村立て宣言し募集をすること。 ・作った村の村人を他スレで募集する場合は、まず専用スレで募集した後に他スレで募集すること。 他スレでの募集の仕方は、募集元のスレURLを貼る。人狼サイトと村名だけを書き募集しないこと。 そして募集元のスレを経由してスレ住民として遊ぶこと。 ~用語集~ 【 E&E! 】 エンジョイ&エキサイティング! 【 CO 】 カミングアウト Coming Out の略 主に能力者の宣言の時に使用される。 占いCO 霊能者CO 等。 【 GJ 】 グッジョブ Good Job の略 良い仕事。また、そういう仕事をした人に送る声援。 占い師GJ 池上GJ 等。 【 吊り 】 処刑の事。 【 池上 】 スラムダンクに出てくるディフェンスに定評のある三年の池上が元ネタ。 狼の攻撃を防いだ狩人に対して使われる。 【 森崎 】 狩人が占い師や守るべき能力者を守れなかった時に使われる言葉 元ネタはキャプテン翼にに出てくる南葛のSGGK(スーパー頑張り ゴールキーパー)こと森崎君。 【 プリキュア 】 共有者のこと、白キュアと黒キュアも同じ。 元ネタが判らない奴は、虹裏へ来る資格無し! 【 デスノ 】 デスノートの略で、更新をしてないプレイヤーやゲームの進行を妨げる人に対して GMが最終手段として強制的に殺してしまうこと。 元ネタは週間少年ジャンプで連載していたDEATH NOTE 【 RP 】 ロールプレイの略、なりきりの事。 【 チャック 】 過去迷推理で村人を混乱させ、果てには最終投票で千日手になった際に、 狼とは無関係の可憐な人に投票し勝負を投げた愛すべき人である。 【 専務 】 過去狂人にもかかわらず占い騙りした際占い師と同じ動きをし 狼に狼判定を出してしまい挙句村人勝利に貢献してしまった人。 今では狂人が人狼側不利に動く事を総じて専務と言うように。 【 PP 】 パワープレイ、組織票、ニヤニヤendの事。 【 妖怪ノシノシ 】 スレッドに伝わる都市伝説 それに泣かされたGMは数多し、のしのしの歴史は古い 【 地雷村 】 点呼無しで突然現れる村 GMが消さないor定員が埋まらない限り一生住民登録画面に残る 誤って登録しないように注意 初めてのGM心得 ―見てから建てろ!― 1.スレで点呼を取る 必須、点呼ついでに希望鯖や仮想時間・制限時間のアンケートをとると良いかも 昼は無しor7~12分、夜は5分~7分辺りが望ましい。 発言し放題の場合制限時間なしにすると大惨事になるので注意 (昼は全員が投票しないと終わらない等) 発言し放題の場合は90秒の自動沈黙等をつけることをオススメします。 2.点呼を確認したら村を作成する どの位かは最低3人から上はいくらでも、4人辺りが平均的 作成手順はゲーム進行手引書(↓)を参考に http //shien.halfmoon.jp/jinro/jinro_gm.htm 3.スレに作成した事を知らせる ○○鯖 ○○村 ○○番地 (仮想時間のみ 自動沈黙:90秒) 立てました、参加者募集中です。等 4.作成した村に”村長”で入室する 村に入ったら何でもいいから発言してくれると入る人はちょっと安心 GMが居ないかもしれない、と言うのはかなり怖いので。 人が来るたびに挨拶するのもいい 5.定員が集まったorこれ以上参加者が来ないと判断したら開始する これより○分後に開始するので皆さん準備・更新しておいてください等言い 行動内容の中から”ゲームの開始”を選び行動してゲームスタートさせる (15人以上からは妖狐発生人数なので発生させる方がいい) 開始お勧め人数は 8・9・11・12・16・22人 有利不利が少ない人数。 6.開始報告をする 忙しいかもしれないがこれだけは絶対に忘れてはいけない。 開始すると決めたら、開始ボタンを押す前に開始報告の内容を用意するのも手。 開始報告をしないと周りの人に多大な迷惑をかけます。 これが出来ないGMは叩かれるかもしれません。 7.上から生暖かい目で見守る 昼・夜が終わりそうな際に各々の更新時間を見ておく 初日犠牲者 初日犠牲者さん [村 人]◆ 04/06-18 40 ← ここが最終更新時間 5分以上更新がない場合この時間を示す文字が赤くなる ゲーム進行を妨げる恐れがあると判断する場合即座に 行動内容の 突然死 を選び対象をデスノする 投票時間になり止った場合は考えている可能性大なので少々待つ 3分以上投票のない場合はそは未投票者に通告、を使っても良いだろう 投票時間は”再投票”をする事によりリセットされる、巧く使おう。 7.ゲームが終わったらスレに終了報告をする ○○番地、村人勝利でした、等 村の簡単な感想を入れると尚良し GMの仕事と言えばこれだけ これだけをきちんとしてくれれば村作成大歓迎。 時間設定について 時間設定、バランスについて纏めてくれた方の文を多少改変し、転載させて頂きます。 経験の浅いGMさんは参考にされると良いかと思われます。 【昼:議論する時間】 昼無し=仮想時間のみ。 シンプルイズベスト。 昼 5分=少人数専用 昼 7分=16人以上だと短いと感じる事も。 昼10分~時間設定無しでだれると思うならこの辺で。 【夜:狼の作戦会議時間】 夜無し=初心者狼だと必要以上に長くなることが多いので× 夜 5分=16人以上のなら短いかも 。 夜 6分=5分では短い、7分では長いと思う方はこれを。 夜 7分=大人数ではこれが良いかと、狼にやさしい。 夜10分~ガチ推理村用。 【投票制限:GMのやることが減ります】 3分=ナローな人やPCの調子が悪い人は死ぬ可能性あり 5分=余裕があり、ベスト 7分=7分にするなら無くて良いかも 【自動沈黙:サクサク進行したいならお好みで】 90秒=付けるならこれがオススメ 120秒~付けても付けなくても一緒かも 開始人数について 8人開始、最低人数、狼1なら村人、狼2なら狼有利 9人開始、霊能者発生、最終日4人、狼有利 10人開始、狂人発生、狼超有利 11人開始、狩人発生、狼若干有利 12人開始、吊り回数デフォルトで5回、村人若干有利 13人開始、共有者発生、村人有利 14人開始、村人大幅有利 15人開始、オプション妖狐発生可能、村人vs妖狐、狼超不利 16人開始、人狼3に、バランス良 17~19開始、村人有利 20人開始、紫炎鯖のみ人狼4に、狼有利? 21人開始、狼まだ若干有利か 22人開始、バランスよさそう。だけど長い。 以上の事から 開始は8・9・11・12・16・22人開始がオススメ。 時間設定は ~12人まで昼無し~10分、夜5分 16人以上は昼無しもしくは10・12分、夜7分辺りがいいかと。 妥当と思われる設定 8~9人(少人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~7分 夜3分 投票3分 11~12人(中人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~10分 夜5分 投票5分 16人(大人数村) 仮想時間or喋り放題 昼なし~12分 夜5~7分 投票5~7分 自動沈黙はお好みで ~他~ ・荒神鯖ログ置き場 http //futabajinro.fc2web.com/ (PHP鯖テスト鯖) http //jinro.zapto.org/ (PHP4 + MYSQL移植版・GM不要システム開発中 他鯖との仕様の違い説明や管理者への連絡板は http //p45.aaacafe.ne.jp/~netfilms/ ) (サブ・荒神鯖) http //aragami.lib.net/jinro_index.htm (最大人数変更可・初日犠牲者あり・実時間選択可) 一時閉鎖 (仮設荒神鯖) http //motoa.at.infoseek.co.jp/cgi-bin/jinro_index.htm (特殊ルール無し、仮想時間のみ) 村宣伝テンプレ例 会場URL (鯖のアドレスhttp //www~ ) 【 部屋名 】 (ここに村名)村 xx番地 【 開始時間 】 xx xx 集まらない場合はxx分延長 【 予定人数 】 8人~xx人 【 妖狐に関して 】 15人以上集まればあり 【 時間制限に関して 】 発言し放題・仮想時間 昼xx分 夜xx分 【 RPに関して 】 他プレイヤーに不快感を与えない程度で 【 Kickに関して 】 更新がない場合、その他進行に支障が出る場合 【 その他のルール 】 システム(独り言含む)コピペ禁止、過度の暴言禁止 村人陣営による村人を不利にする騙り禁止 戦略的突然死禁止
https://w.atwiki.jp/kakugame/pages/607.html
必殺技 発気掌 ↓↘︎→ P 転身翔 →↓↘︎ 双掌進(※1) ↓↙︎← 虎尾脚(※2) K 連撃蹴 ジャ↓↙︎← 斜上腿 接←↙︎↓↘︎→ 燕雲十六手の構え① ↓↓+A(構え後移動•リ超発動可) ┣単掌進 ①〜 A ┃燕雲下爪┣(★•※3) B ┣燕頷双掌打 C.A ┣流燕旋脚 D ┣旋回燕(※4) ↑+K ┗前掃燕舞 ↓+D.→+B 裏燕の構え② ↓↓+B(構え後移動•リ超発動可) ┃燕龍盤打┣(※5) ②〜 A ┣燕刃脚(※6) B ┃背撃手┣(★•※7) C ┣燕尾脚(※2) D ┣背身天落投 接↓↘︎→+P ┗裏燕流舞 →→+BD 構え解除 ①•②〜←← 超必殺技 双掌天連華(★) (↓↘︎→)×2+P リーダー超必殺技 天翔乱姫 (↓↘︎→)×2+E 投げ技 天落投 接←•→ C/D 反転投 ジャ接↓ 特殊技 穿撃蹴(※5) → B 高蹴打 ジャ↓ 旋撃手(※8) ↘︎+C (補足) ※1…出ぎわにAB同時押しでブレーキング可•①に移行する ※2…ヒットした瞬間にAB同時押しでブレーキング可能 ※3…燕頷双掌打•流燕旋脚でキャンセル可能 ※4…連撃蹴でキャンセル可能 ※5…攻撃後は①に移行 ※6…構え技以外の必殺技でキャンセル可能 ※7…燕尾脚でキャンセル可能 ※8…攻撃後は②に移行 キャラ別索引 KOF(03•XI)
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/527.html
【宮城退魔帳 その二】 差し込む朝日で目が覚める。 俺は仮の寝床であるソファーから起き上がりカーテンを開く。外は快晴だ。 腕の怪我ももう違和感が無く痛みも無い。傷口は残るだろうが治癒の異能の効能には驚くばかりだ。 俺達が双葉学園に来てから既に三日が経っていた。 現在、俺と相沢さんは部屋の入居手続きが完了するまでの間、仮の住いとして千晶さんの部屋にお世話になっている。 それ自体は問題ない、むしろありがたいことではあったのだけれども困ったことがあった。 それは、低血圧なのか千晶さんも相沢さんも朝が凄く弱く完全に目が覚めるまで暫くかかること。 現在朝の六時前、日も昇り窓の外からは雀の囀りが聞こえてきている。 「そろそろ、か」 昨日、一昨日と同じなら二人とも6時にアラームをセットしている筈だ。 六時ジャスト、案の定目覚まし時計特有のけたたましい音が鳴り響く。 俺はとりあえずそれをBGMにしながら三人分の朝食を作りにかかった。事前に千晶さんの許可は取ってある。お世話になっているせめてもの恩返しだ。 まず冷蔵庫から紅鮭を取り出しオーブングリルに入れ弱火で少しずつ焼き上げる。 鮭が焼けるまでの間に軽く味噌汁を拵えよう。 先ずは鍋に水を張り昆布を浸す。これは既に昨晩仕込んで置いたから問題ないのでこのまま火にかける。 鍋が煮立つまでの間に器に納豆、菜のお浸し、卵を盛り付けておこう。 グリルののぞき窓から紅がいい具合に焼けていることを確認して火を止める。あとは冷めるのを防ぐため直前までここまま置いておこう。 ある程度鍋が温まってきたら昆布を取り除きすばやく味噌を溶いた。仕上げに豆腐と油揚げを入れて出来上がりだ。 そうして朝食の支度がほぼ終わりかけた頃、二人はのそのそと起きだしてきた。 「おはようござっ…」 俺は反射的に回れ右をしている。 二人の格好はというと寝巻きははだけて下着が露になっていたり上半身裸にTシャツだったりと年頃の男性にとって非常に刺激の強い格好だった。 「二人ともその格好をどうにかして下さい!」 俺は後ろを見たい衝動を理性で捻じ伏せそう叫ぶのが精一杯だった。 二人はその一言でやっと完全に覚醒する。 「「きゃああーーーっ!」」 朝の爽やかな空気の中に悲鳴が木霊した。 「いやー、ゴメンね大声だして」 「慧護さんごめんなさい…」 千晶さんは照れ隠しか笑いながら、相沢さんはしゅんとして謝る。 「いえ、いいですよ事故みたいなものですし」 味噌汁を啜りながら答える。 「それよりも今日の予定は何でしたっけ?」 本当は分かっているが多少強引にでも話を変えてしまいたかった。 「そうね、今日は双葉区内の各施設を回ってもらうわ。そして最後に部屋に案内ね。」 「はい、ありがとうございます」 まだどうにも気まずかった。 「はい、先ずはここ、明日から貴方達の学び舎となる双葉学園の高等部の校舎群よ」 千晶さんが指差しながら説明する。 「各校舎には第六十一~九十までの番号が振られており、各学年ごとに三~四クラスが入っています。」 「はい、千晶先生。質問です。何故六十番からなんですか?」 相沢さんが手を上げて質問する。確かに何故六十番からなのだろう? 「そうね、この学園は小中高大一貫校だから小学校から順に校舎の番号が割り振られているの。小学校は一~三十番。中学校は三十一~六十番という感じにね」 千晶さんは続けていう。 「あと、各学年のクラス数は約50ちょっと。残った校舎は部活棟や特殊教室棟、ラルヴァの襲来によって校舎が破損した場合の予備として割り振られているわ」 「なるほど、メモメモ・・・」 相沢さんがそう言いながらメモ帳に書き込みをする。 「それで、僕達の編入されるクラスは何番校舎ですか?」 「まぁそう急かすな少年。それは今から説明するから。ついてきなさい」 そういって千晶さんは歩みだす。 俺達はそれに続いて歩く。その間道を覚えようと周囲の景色に意識を巡らせていた。 周囲の校舎に打たれた番号が移り変わっていく。八十八、七十三、六十九・・・。 「そしてここが貴方達の学び舎、65番校舎よ」 目の前に立つ何の他の校舎とそう変わりないがこれから世話になることを思うと妙に感慨深い。 「貴方達が編入されるの二年十八組はこの校舎の2階階段上って左側です」 「校舎内は他に目立つような場所は無いのでここまでですね。次は中央アーケード街に行きます。必要品があれば今のうちに買っておくのもいいかもしれないわ」 「はーい」 相沢さんが何故かやたら嬉しそうに返事をしつつ俺達は中央街に向かった。 「何故、こんなことに…」 一人呟く。俺の両手には片側10kg近い荷物がぶら下がっていた。 「それでねーこのお店、安い割りにいいものが多いのよー」 千晶さんがはしゃいでいる。 「そうなんですかー。あっ、これ可愛い!」 「でしょう!それでねこっちのクレープ屋も昔からの定番でねー」 その先は聞き取れない。しかし、女性というのは買い物に関しては異常なまでの情熱を燃やすと聞いたことがあるがこれほどだとは思わなかった。 時計を見る。本来俺達を引率するはずの千晶さんもすっかりはしゃいでしまい本来の時間を大幅に過ぎているはずだった。 楽しんでいる二人には悪いが次に急がなければならない。 「あのー千晶さん」 「はい?」 心なしかその声色には不機嫌な成分が多量に含まれている気がした。 「楽しんでいるところ悪いんですが、そろそろ次に行かないと・・・」 そういって時計を指す。アーケードの中央に設置された大時計はもうすぐ3時を示そうとしていた。 「ああ、もうそんな時間…。えー中央アーケード街の紹介はここまでにして次は本日最後の施設、対ラルヴァ機関ALICEへと向かいます。時間が無いのでダッシュで」 千晶さんは頬に生クリームをつけたまま走り出す。タイトミニの割りにはかなりの早さだ。 「あっふぃあふぃふぁんまっふぇくふぁふぁーい」 まだクレープを頬張っていた相沢さんも食べながら追いかける。 そして俺一人が残された。 「…。俺に一体どうしろと?」 走る事自体は可能だが、間違いなく袋が保たない。 両腕にそれぞれ10kg超の荷物を抱えながら俺は途方に暮れるのだった。 「ぜぇ…ぜぇ……」 あの後荷物の紐が切れないように細心の注意を払いながら可能な限りの速さで追いかけたが結局追いつけなかった。 結局道すがらに人に道を尋ねながらたどり着くことは出来たが、かなり無駄な時間がかかってしまった。 「少年遅かったじゃないか」 その声で施設前の駐車場で待っている二人の姿を見るける。千晶さんの頬にはまだ生クリームが付いたままだった。 しかしなんでこの人は余裕ぶっているのだろうか? 言いたいことは山ほどあるが今はヘバって何も言えない。 「慧護さんごめんね」 相沢さんが朝と同様に申し訳なさそうに謝る。 「おや、相沢さんが悪いわけではないから気にしなくてもいいよ」 「でも…」 まだ申し訳なさそうにしている相沢さんに笑顔を返す。 「えー、ゴホン。お前ら惚気るのはいいがせめて場所を選んでくれ。それ行くぞ」 いつの間にか背後に立っていた千晶さんが少し照れたように言い、早足で施設内部へと入っていった。 「…俺達も行こうか?」 「うん」 お互いに相手の顔を見ずに言う。だって照れた顔なんかあまり見られたくないじゃないか。 「貴方達が双葉学園と共に所属するもう一つの組織がALICE アリス 、Anti Larvae InterCepting Engineです。」 ブリーフィングルームに千晶さんの声が響く。そこにはさっきまでの少しおちゃめな雰囲気は消え、間違いなく教師としてここにいた。 「アリスは双葉学園の創設とほぼ同時期に設立された対ラルヴァ機関で戦闘系の異能を持つ学生・職員によるラルヴァ討伐を目的とされた組織です。」 「システムとしては単純で感知の異能者がラルヴァを検知・報告するか、専用の並列処理コンピュータが全国の警察・緊急回線を傍受してその中からラルヴァであると思われるものがピックアップします。 次にローテーションで待機している異能者に召集がかかり、門 ゲート と呼ばれる転送装置によって各地に送られます。この門は基本片道切符なので帰還は異能によって行われるわ」 千晶さんの説明は続く。 「また、この派遣される異能者は戦闘要員二名と結界要員一名の三名一チームで構成されています」 そこで俺は疑問に思い手を挙げる。 「千晶さん、その結界要員というのはどういうものですか?戦闘要員は呼んで字の如くですからわかるんですけど」 「良い質問ね。宮城君。この結界要員と言うのは一般人から異能やラルヴァを秘匿するための人員なの。その手段は様々だけど本来の異能を使用する者は割と少なく主に根源力を使用した装置が用いられるわ」 「装置、ですか?」 「そう。これらは 超科学 に分類される異能者によって造られた物が殆どでほぼすべてが一品物よ」 そこで千晶さんはテーブルに手を置きこちらを向く。 「今日のところは小難しい説明はこのくらいにしておきましょう。残りに関しては簡単な資料が配布されていますから後ほどそれを参照してね。」 千晶さんが資料の束を閉じ、プロジェクターの電源を切る。 「さて、今日のところはこれでおしまい!あとは帰るだけ!その前に」 千晶さんはお腹を押さえる仕草をする。 「お腹減ったしご飯でも食べに行こっか!」 時計を見る。時刻は既に6時を回っていた。 「ヘイラッシャイ!」 屋台から威勢の良い声が響く。屋台の看板には大車輪とある。 「おっちゃん久しぶり。元気してた?」 千晶さんは屋台の大将と思われるおじさんに気軽に話しかける。 「おや千晶ちゃんじゃねぇか!ちょっと見ないうちに一層美人に磨きがかかってたんで気づかなかったぞ!」 「やぁね、おっちゃんったら相変わらず調子良いんだから」 千晶さんが少し照れるように返した。 「ところでその後ろのお二人のお連れさんは?」 「この子達は明日からこの学園に編入されるの。今日は学内の案内をね」 「なるほどねぇ。カップルで編入って訳かい!」 大将がカカと笑いながらこちらを見る。 「そっ…、そんなんじゃありません!」 相沢さんが大声をあげて否定する。事実だけどなんかショックだ。 「おっちゃんあまり若い子をいじるのはよしなよ」 千晶さんがちょっと嗜めるように言う。 「ガハハハ、スマン。このくらいの可愛い子をみるとついな。お詫びに杏仁奢るから許してくれな?お嬢ちゃん」 「そういうことなら…」 相沢さんはまだ少しムスっとしながらそう返す。 「さて、一区切り着いたし何を注文するかい?」 こうして夕食の時間は賑やかに過ぎていった。 夕飯を食べ終え三人で帰宅の路に着く。 「良い店だったでしょ?」 千晶さんが聞いてくる。 「えぇ、量も多いし味も良かったし親父さんも味のある良い人でした」 「ちょっと意地悪でしたけどね。でもあの杏仁豆腐はすごくおいしかったです!」 俺達はそれぞれ答えを返す。 「でしょう?あの店は私がまだ生徒だった頃からあのまんまでね?」 千晶さんがそう話しているとき、俺達に支給されたPDAが一斉に鳴り出した。 「一体何が」 俺達はPDAを開いて内容を確認する。そこにはこうあった。 「緊急・ラルヴァ出現警報。師走地区四丁目にてカテゴリービースト・スレッジハマーの出現を検知。近隣の生徒・職員は次に指示する経路どおりに非難をお願いします。」 「スレッジ…ハマー…?」 千晶さんが呟く。心配になり顔を覗き込むと、その表情はどんどん蒼くなってゆく。その目は焦点を見失っている。 その時、少し先の道から全高五メートル程の黒い影が出現する。近くの電柱を見る。ここは師走地区四丁目だった。 「千晶さん、しっかりして下さい!」 そう呼びかけるも千晶さんは全く反応せず地面にへたり込んでしまっていた。 黒い影はまるで怪獣映画のような効果音を伴いながら、少しずつこちらに接近してきていた。ラルヴァの歩みは遅いがこのままでは逃げ切れない。 「相沢さん、千晶さんを連れて避難してくれ!」 両手の荷物はこの際諦めるしかあるまい。運がよければ後で回収しに来よう。 「分かった!でも慧護さんは?」 「俺はヤツに向かって時間稼ぎをする!なに、この学園には他にも異能者が多く居るはずだからそれまでの間さ、大丈夫だ」 俺は相沢さんにサムズアップを返す。 「うん…。慧護さん、無事でね…」 「ああ、大丈夫だ」 俺はもう一度、相沢さんに向かって笑顔を向けたあと、近くの電柱脇に荷物を置くとラルヴァに向かって走っていった。 そのラルヴァは巨大だった。羆のような体つきに異常に発達した腕を持ち、体格は羆より二周り以上大きく五メートル以上の体高を誇っていた。 「あの腕がスレッジハマー 大槌 と呼ばれる所以か・・・」 俺はそう独り言、ラルヴァと対峙する。 そして、俺が奴の間合いに入った瞬間、その体格からは想像出来ないほど俊敏な一撃が振り下ろされた。 他の異能者が来るまでの間、それだけの間保てば良い。そう思っていたが楽観視が過ぎただろうか? 巨躯から繰り出される攻撃は無慈悲なほど強力で、その間隙も絶え間ない。 その一撃を躱すごとにアスファルトの道路が砕け陥没し、飛礫が膚を叩いて少しずつ、だが確実にダメージが蓄積してゆく。 半日間両腕に大荷物を持って移動したり、食事直後に急激な運動をしたこともあり予想以上に体力の消耗が早い。 「これはこの場で躱し続けるよりどこか広い場所に誘導した方が良いか…?」 そう考えながらも体力はジリジリと消耗してゆく。あまり考える時間は無い。 俺はタイミングを図り一気にラルヴァとの間合いを詰める。崩壊した道路に蹴躓きそうになりながら。 しかし、ここに来てスレッジハマーは今まで縦に振り下ろしていた腕を、横に薙いだ。 慧護さんが巨獣に向かって走ってゆく。心配だけど今は慧護さんを信じるしかない。 千晶さんは未だ込んだままだ。その目は虚ろで現実に焦点が合っていない様に見えた。 早く避難しないと慧護さんが命を張ってまで時間稼ぎをしてくれている意味が無くなってしまう!そう思い私はいきなりだが多少強引な手を使うことにした。 千晶さんの頬を数度、軽く平手で張りその瞳を覗き込む。 「千晶さん、聞こえますか?」 段々とその瞳に光が戻り、焦点がこちらに合っていくのが分かる。 「相…沢……さん?」 「そうです。今の状況が分かりますか?」 「えぇ…、ラルヴァが出て、それで私・・・」 半ばうわ言のように呟く。 「そうです。だから、今は避難しましょう」 そう言いながら私は千晶さんを立たせる。 「慧護さん、死なないで…」 私はそう呟き、千晶さんと一緒に避難を開始した。 「危なかった…」 まさに間一髪だった。とっさにヘッドスライディングの様に頭からダイブしてなければあの豪腕の餌食になっていただろう。 なにはともあれ奴の背後の回ることが出来た。後は思い通りの場所まで誘導できるかどうかだ。 さっきPDAに映し出された避難経路図が確かならば、この先は広場になっている筈だ。 振り返り、再びこちらを狙い始めたラルヴァに対し、俺は奴の間合いギリギリを保ちながらおびき寄せていった。 「打撃力が足りないな…」 集合場所に集まった面子を見て俺は俺はため息を吐く。 アリスから緊急の召集を受けて即応できたのは俺達三人、内一人は連絡手段しか持たないテレパスだ。 「そんなことは無いだろう、田中」 この暑い季節にコートを羽織った眼鏡の男が返す。 「相手は過去十数年に何人もの人を殺害した凶悪なラルヴァだ。油断するとお前も犠牲者リストの仲間入りを果たすことになるぞ、鷹津」 俺はそう鷹津尚吾 たかつしょうご に返す。 「いや、俺そこまで近づかないから。近接戦闘はあんたの性分でしょう」 そう言いながら鷹津はコートを叩く。 「ところで橋本、ラルヴァの動きはどうだ?」 俺はPDAで情報を収集していた橋本恵 はしもとけい に話しかける。 「はい、目標は師走地区四丁目に出現した後暫くその場に停滞して道路を破壊、その後急に進路を変え現在こちらに向かっています。」 俺はしかめ面をしながら考える。 「不可解だな…」 目標の動きもそうだがここまで被害が少なすぎる。 「あ、追加情報が入りました。目標の至近に学園生徒のGPS反応捕捉しました。どうやら誰かが交戦しているみたいです。」 橋本はこんな時でも淡々としたペースに変わりが無い。 「鷹津、狙撃位置についてくれ。ここで迎え撃つ。橋本はその生徒にテレパスでコンタクトを取ってくれ。俺は橋本を安全圏まで連れて行ってからまたここに戻る」 そう言いながら俺は橋本を抱きかかえる。こいつのテレパスは精度は高いが集中力を要し、その間一切の行動が取れないのが欠点だった。 「即、行動に移ろう。解散!」 容赦ないラルヴァの猛攻をかわし続ける。広場入り口まであと数十メートル。 そこで不意に脳内に声が響いてきた。 「CQ、CQ。ラルヴァと交戦している貴方、聞こえますか?こちらアリスの者です。返信はイメージで十分です」 やっと待ち望んだ者が来た。そう思いながら俺は返事をする。 「聞こえる。今ラルヴァを広場らしき場所におびき寄せている。あと、こちらは攻撃手段を持っていない」 「わかりました。そちらの位置はこちらでも捕捉しています。広場にこちらの異能者が二人待機しています。それまで持ちこたえてください。」 あくまでその口調は静かで淡々としている。 こっちの体力もそろそろ限界に近づいてきている。あと二十メートル。 続く二撃を躱してあと十メートル。 「十分です。後はこちらで引き受けます。隙を作りますので離脱して下さい」 また声が響く。 返事をする余裕はもう無い。 0メートル。広場に到着する。それと同時に花火の様な爆発音が響き、奴はたたらを踏む。 俺はこの隙を逃さず残った気力と体力を振り絞りラルヴァに背を向けて全力で走り出す。。 広場の中央を通り過ぎ男とすれ違う。 「お疲れさん。後は任せろ。その先の茂みにさっきのテレパスがいるからそこに駆け込め」 その男はすれ違いざまにそういう。俺はその男の言われるまま茂みに突っ込んだ。 「さて、やるかね」 俺は首を回しながら標的と相対する。獲物を取り逃がしたラルヴァはその瞳に怒りを湛えながらこちらを睨む。 そんな奴に大して俺は微笑みながらこう返した。 「おいおいそんなに見つめるなよ。照れるだろ?もしかして俺の肉体美に惚れたか?でもな、…」 その先の言葉は不要だった。奴は怒りに任せてその名の所以たる両腕を振りかざす。 俺はその攻撃を避けもせずただ見ていた。 再び発砲音が響き、大槌は空しく空を切るばかりだった。 「次はこちらから行かせて貰うぞ」 俺はそう宣言した後、目標に肉薄その脚に正拳を叩き込む。が効果は殆ど無かった。 「堅ぇなこいつ…。鷹津、AP弾を使ってくれ!」 俺は学生証に内臓された通信機能で鷹津を呼び出す。 「もう使ってる。しかし全弾ほぼ表層で止めらた。SVD ドラグノフ じゃ駄目だ。AMR 対物狙撃銃 でも無いと貫けん。」 俺は舌打ちしながらその返答を聞いている。 「やはり火力が足りなかったか…。そのまま狙撃を続けてくれ」 打撃力が足りなくても何とかしなければならない。被害を拡大させるわけには…。しかし今からだと応援も間に合わない。 「田中、お前の全力でアレと力比べして何秒あいつの動きを止めれそうだ?」 「頑張っても二十秒ってところだろうな」 俺は攻撃を躱しながらそう返す。 「…三十秒、頼む」 「わかった。トチるなよ」 俺は自身の異能・筋力増加 マッスル・ブースター を限界まで作用させ、ラルヴァの豪腕を受け止める。 恐ろしいまでの衝撃と共に脚が地面にめりこみ、全身が悲鳴をあげる。 「鷹津、後は任せた」 田中が目標の一撃を受け止め膠着状態に入る。 俺はそれを見ながら愛銃を構える。残り二十秒。 狙うは奴の眼球、およそ四センチ四方。銃身は既に熱を持って精度を失いかけている。失敗は許されかった。 スコープを覗きながらおおよその照準を合わせる。残り十秒。 残りを経験と勘で狙いを絞りトリガーを引いた。 俺は茂みから息を整えてその戦いの結末を見ていた。 巨獣の目から血が迸り、咆哮をあげる。そして徐々ににその輪郭薄めてゆく。 「逃げられてしまいましたが相手が相手ですし、撃退できただけでも上々の結果ですね」 隣にいた女性が声をかける。あのテレパスの人だった。橋本というらしい。 「あれで仕留められなかったんですか?」 俺は橋本さん訊いている。 「ええ、通常ラルヴァを退治すると幽霊の様に消えるのではなく灰となって消えてゆくのです。ラルヴァについては基本的な知識の筈なのですが…」 そこで言い難そうに言葉を切る。 「いえ、気にしないで下さい。俺、まだここに来て三日目で学園にも明日から編入なんで何も知らないも同然なんです」 「そうでしたか」 彼女は俺の答えに納得したように頷く。 「橋本とそこのアンタ、ちょっとこっちに来てくれ!」 先ほどすれ違い、ラルヴァと戦っていた男が呼んでいる。 「どうしました?田中さん」 俺と橋本さんは田中と呼ばれた彼に向かって歩いてゆく。 「あれ?鷹津さんはどうしましたか?」 「あいつはするべきことはしたし後は帰って寝るってさ」 「あの人らしいですねぇ」 「っとスマン。紹介がまだだったな。俺は大学部三年、アリス所属の田中敦 たなかあつし だ」 大柄で筋肉質の彼が手を差し出す。 「明日から高等部二年に編入予定の宮城慧護 みやしろけいご です。アリスにも所属予定です」 そう言いながら俺は差し出された手を握り返す。 「そうか、これからよろしくな。ところでこの鞄、さっきのラルヴァが消え去り際に落としていったんだがお前のか?」 そういって田中さんは白い鞄を突き出してくる。 「いいえ、違います。誰のなんでしょう?」 俺はそう返す。 「よく見ると一部に血痕みたいなものが付着してますね。もしかしたら過去の犠牲者のものなのかも知れません」 と橋本さんが鞄の底に近い部分を指差しながら言う。 「本当だな…、ちょっと持ち主には悪いが中を確認させてもらうか…」 そう言いながら田中さんは鞄の中の物を出そうとする。 「ちょっと待って下さい。さすがにここであける訳にもいかないでしょう。一旦本部に現状を報告してからにしましょう。向こうにはデータバンクに直結している端末もありますしその方がいろいろ良いでしょう」 そう橋本さんが提案する。 「そうだな…。じゃあ本部に報告頼む」 「わかりました」 橋本さんはPDAを通話モードに切り替え、報告を始めた。 それから三十分後、俺達はアリス本部施設内のブリーフィングルームに居た。 相沢さんたちには既に無事を伝え、事の次第をかいつまみ説明したあとそのまま解散することにした。 アパートの地番は受け取っているから多分大丈夫だろう。 そして、田中さんは机の上に鞄の内容物を一つ一つ慎重に取り出してゆく。 「これは…、生徒手帳兼学生証?」 俺は現在においてもオーソドックスなタイプの手帳を指す。 「みたいですね。ですがここは十年程前から現在の形の電子証を導入していますからこれはそれ以前のものでしょうか?」 田中さんが手帳を手に取り中を見る。 「持ち主の名前は岩田圭介、2007年当時で高等部一年だったみたいだな。橋本、この情報を元にデータバンクに検索を掛けられるか?」 「やってみます」 既に橋本さんは端末を弄っている。 「出ました。岩田圭介…十二年前にあのラルヴァ スレッジハマー と遭遇、殺害されています…」 俺達はただ、黙祷し彼の冥福を祈ることしか出来なかった。 私は薄暗い部屋の中、ベッドの上で足を抱えている。 もう十二年も前の事なのに未だ脳裏に焼き付いて消えない惨劇。 「もう、吹っ切れたと思ってたのになぁ…。圭介・・・苦しいよ」 その言葉は誰にも受け取られることはなく、ただ虚空に散っていった。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1281.html
ラノで読む その部屋は、機械音と水泡音に包まれた異質な空間だった。 天井、床、壁を無尽に埋め尽くすコードとパイプ。 脈打つすれはまるで生物の血管のよう。そして突き立ついくつもの巨大な培養槽は内臓か。 その中は溶液と水泡で満たされ、中に何があるのかは一目では判らない。 そんな密閉された中に、二人の人物がいた。 一人は、少年か。 白衣に眼鏡の長身の男。 そして机を挟んで彼に相対しているのは、少女。 後ろ髪を短く刈った、小柄な少女。彼女の視線は眼前の男ではなく、机の上に置かれた一冊の本に釘付けになっている。 革表紙に金の飾り文字の、古い本だ。 一般的にはあまり見られない、一筆書きの六芒星と不思議な象形文字が表紙に飾られている。 それは見る者が見れば、何を示しているかは判るだろう。 即ち、獣の六芒星と薔薇十字団の魔術文字である。 アレイスター・クロウリーの記したと言われるその星の下に刻まれている文字を英語に直すなら……こう読めるだろう。 【MOON CHILD】 月の子――そう、確かに記されている。 「この本で……」 少女は震える声で言う。そこに含まれている響きは、畏れか、憧憬か。あるいはその両方だろうか。 「そう、その通りです」 対して、男は誇るように言う。 「それで君の願いが叶う……判りますね? 君は生まれてきたことが罪、生まれてこなければよかったと言いましたが……それは違う。 罪を犯さなければ、償うことすら出来はしないのだから。 そして君は今此処に、償いの術を得た。あとは君の意思ひとつ……判りますね?」 「なら私は……」 本を手に取る。そして、ぎゅっ……と力を込めて胸に抱き寄せた。 「……私は!」 その声に、男は笑う。亀裂のような、あるいは三日月のような笑みを浮かべて。 「宜しい。 では聖誕祭の準備と行きましょう。君の手にした書と私の錬金術があればそれは叶う。 いざ始めよう、偉大なる――月の子の誕生を」 ごぼり、と。 培養槽の中で巨大な水泡が、その言葉に答えるかのように弾けた。 MOON CHILD 「え? なんだって、俺一人で仕事しろ? 何言ってんだくされ教師が! それでもてめぇ先生かよ!」 木々の緑がさわやかな風に揺れる中、携帯電話に向かって怒鳴る少年がいた。その大声に小鳥たちがあわてて飛び立つが少年はそれどころではなく続ける。 「俺はサポートのはずだろうが! 先輩たちは!? は? 急に他の仕事で……海だぁ!? つーかなんで電話の向こうで楽しげな声聞こえてんだ! バカンスとかじゃねぇだろうなおい! ……黙るな! もしかして最初からそのつもりかよあんたっ!?」 叫ぶ少年に、周囲を行きかう人々も奇異の目を向けるが、やはり彼はそれに気づいていないのか、それとも気にしていないのか声を上げ続ける。 「もしもし? もしもーーし! ……切りやがった、しかも着信拒否かよ!」 携帯電話を握り砕く勢いで少年は叫ぶ。 「……っ」 乱暴にポケットに携帯電話を入れ、そしてため息をひとつつく。 「……はあ。しゃーない、やるしかねぇか……」 そう言って、少年は坂道を登り始めた。その道が続く先には、ミッション系スクールの大きな校舎が見えていた。 少年の名は久崎竜朱(くが・りゅうじゅ)。 双葉学園に通う生徒である。だが、ここは双葉ではない。北陸地方の内陸部である。何故彼がそんなところにいるのか。 「……くそ、こんなことならバックレればよかった、補習」 そう、補習である。試験をさぼり赤点をとってしまい、教師に呼び出された。そして補習とばかりにラルヴァ退治のチームに組み込まれる事になったのだが…… 「押し付けかよ、聞いてねえぞ……」 木々を掻き分けながら竜朱は愚痴る。 いつもそうだった。あの教師は事有るごとに何もかもを押し付ける。自分が楽をするためならば手段を選ばない人間だった。 その裏でどれだけ自分が貧乏くじを引かされてきたかは思い出すだけで腹が立つ。 「とっとと終わらせて帰るか……」 そうつぶやきながら足を進める。 「まあ、ついた早々にラルヴァとかちあうなんてことは……」 そう言った瞬間。 「ひぃやぁあああああっ!」 女の子の悲鳴が竜朱の耳に届いたのだった。 「お約束だなオイ!」 木々を掻き分けて走る。開けたその場は、森に囲まれた閑静な広場だった。 そして修道服姿の女の子が倒れている。意識はあるようだが、腰が抜けたのか、上半身を起こして怯えながらそれらを見ている。そしてそのさらに後方には眼鏡をかけた男子生徒が倒れていた。 (ラルヴァか?) 竜朱が見たのは、二匹の獣だった。 くすんだ灰色の体毛をした、半透明の大型の獣。それが常軌を逸した赤い目を輝かせ、今にも獲物に襲い掛かろうとしていた。 「ちっ!」 すかさず竜朱は躍り出、女の子の前に立つ。 「GRUREAAA!」 獣が吼え、竜朱に襲い掛かる。だが竜朱はその繰り出される爪を最小の動きで避わす。 頬の皮が裂け、血の飛沫が飛ぶ。だがそれだけ。そして竜朱はその両手で二体の獣の顔面を掴んでいた。 (人狼……いや違うな、狼型人工精霊(エレメンタリィ)か) 竜朱はその正体を看破する。 魂源力によって組み上げられた擬似霊魂体。古くはこの国では式神や式鬼と呼ばれた、魔術・呪術によって作られる人造のラルヴァだ。 (命令を受け行動している……訳ではないな、暴走している。なら仕方ない) そして竜朱は、その腕に力を込める。 思う。ただ思う。その意思はコマンドとなり、人工精霊たちに強制的に命令を下す。すなわち―― 「砕けろ!」 魂源力を送り込む。意思によって組み上げられた擬似霊魂体を、より破壊的で傲慢なひとつの意思が塗り替える。 ただ一言の暴圧的な意思を送り込まれた狼たちは、悲鳴を上げながらのた打ち回り、そして紫電を上げながら――崩壊した。 「今見たことは忘れろ。とるにたらない、どこにでもある心霊現象だ」 竜朱は少女を見下ろしながら言う。 「どうせ他人に話しても馬鹿にされるだけで……」 しかし竜朱の言葉は最後まで続かない。 「かっこ、い――――――――――――っ!!」 そう少女は叫び、飛びつく。その体当たりに竜朱は思わずたたらを踏む。 「お、お前腰抜けてたんじゃなかったのか?!」 「やだもう、腰がどうのなんて破廉恥えっちーぃ!」 「破廉恥なのはお前の思考だ!」 「ていうか今の何ですか、こう掴んで光ったらずばーんっ、て!」 「人の話を聞け!」 「私ですか私は西宮浅葱(さいぐうあさぎ)っていいます!」 「聞いてねえ!」 二重の意味で聞いていなかった。 数分後。 竜朱は浅葱と名乗る少女を落ち着けさせ、倒れていた男子生徒も起こしていた。 本当はとっとと去りたかったのだが、浅葱がそうさせてくれそうになかったから仕方なく、である。 「つーかナベっち、ひ弱っ」 浅葱は男子生徒に向かって言う。 「ナベっちではなく田辺ですって。というかですね、あ、あんな化け物をやつつけられるほうがおかしいんです! ……あなた、何者ですか」 田辺は眼鏡を指で持ち上げながら、猜疑心を丸出しにして問いただしてくる。 ……これだからとっとと去りたかったのだが、と竜朱は思うが後の祭りだ。これが、双葉学園の外の一般的な普通の人間の対応である。それは仕方ないしそれに対していちいち傷つくような繊細な心は持ち合わせていない。ただ、後々面倒になりかねんと煩わしいだけだ。 「さあな。どこにでもいる魔法使い、って所だ」 だからあえて適当にはぐらかす。 「ふん、怪しいですね。そもそも魔法使いなんていうものは、現実と妄想の区別が付かない愚か者か、あるいは子供を騙す詐欺師かのどちらかで……」 「じゃあ私騙されたいでーすっ! むしろ騙してっ!!」 そして浅葱が、その一触即発の空気をぶち壊す。 「……」 「……」 竜朱と田辺はそろってため息をついた。 「……まあいい。ところで校長室はどっちか、教えてくれないか?」 頭をぼりぼりと掻きながら、竜朱はそう言った。 校長室は、普通の校長室だった。ミッション系スクールといっても、どこからどこまでも教会チック、というのではないようである。精々が十字架や聖母像を飾っている程度だ。 だがその聖母像に竜朱は気づく。 「……黒い聖母。この学園は隠れて女神信仰を教義にしてるのか?」 黒い聖母。そう書くと不吉な響きを持つが、何の事は無い異教の女神、イシスやアテネなどをマリア像としてカモフラージュしたものだ。古い秘教信仰は、そうやって現在も生き続けている。 その竜朱の言葉に、校長は笑う。 「いや、あくまで私や、数名の私の同胞だけだよ。そうだろう、兄弟(フラター)」 「……」 その言葉に竜朱は頭を掻く。 「くそ、先生の同類かよ」 「同胞、と言い換えて欲しいね。彼女は元気かね」 「元気も元気だよ。今頃は仕事を俺に押し付けて海でバカンスのまっ最中だとよ」 「それはなにより」 「皮肉だよ! ああくそそーいうの通じないところまで同類か!」 竜朱は深呼吸をひとつし、気を切り替える。 「……やってきていきなりあれかよ。大丈夫なのか」 竜朱は人工精霊の件について話す。 「なに、閉鎖された教会やミッション系スクールではよくある集団ヒステリーだ。」 校長は笑顔で言った。 古くより、閉鎖された教会などではよく修道士や修道女が「悪魔」を視、騒霊現象が多発するという。それは集団ヒステリーによる共有幻想である、と心理学などで説明されている。 抑圧された心理による共有された妄想、その影響下ではどのような幻覚を見たとしても不思議ではない……そういう理屈だ。 そう、表向きは。たとえそこにどのような異能やラルヴァがかかわっていようと、表の世界ではそういう「もっともらしい理屈」で説明づけられるのだ。 「……それで済めばいいんだがな。で? 俺たちが呼ばれたのはあれの退治のため……じゃないんだろ?」 「ああ」 「だよな。あれは魔術で編まれたものだ。暴走か何か知らないが、あの程度ならあんたらでもどうとでも出来るはずだろう」 「いや無理だ」 「無理なのかよ!?」 あっさりと言う校長だった。 「私たちは荒事に向かないのだよ」 「威張るな威張るな……」 「まあ話を戻そうか。今回、我らが双葉学園に依頼をしたのは、だ。我々の学園で起きたとある事件……といってもそこまで表ざたになってはいないのだが、その事件にラルヴァが関わっている疑いがあるのでね」 「疑い、かよ……」 「君子危うきに近寄らずだよ。正直、私たちは一般人に毛の生えた程度の力も無いからね。視て、感じて、学べる程度だ」 「嘘吐け」 竜朱はあっさりとその言葉を否定する。 「……まあいい。それでその事件というのは、だね。魔術書の紛し……盗難事件だ」 「今紛失とか言わなかったか?」 「気のせいだ。君の聞き違いだ。図書室に秘蔵してあった魔術書のひとつが何者かによって奪われたのでね。この学園から持ち去られていない事はわかるのだが……」 「だったら生徒が間違えて迷い込んで普通に持って帰っただけじゃないのか? それなら問題ないだろ、魔術書なんて暗号化されてて普通の人間にはあやしげな本以上のものじゃない。寓意化や比喩、そしてカバラ暗号術の文字置換法(テムラー)、数秘法(ゲマトリア)、省略法(ノタリコン)によって隠された秘術を学生程度に解き明かせるとは……」 「そうだな。だがそもそもその図書館自体に幾重もの結界が張ってあった。間違えて迷う込むことは無い、意図して進入しない限りは。つまり……」 「なるほど。資格は十分、悪用するつもり満々、ってことか」 「配置しておいた人工精霊も見事に破壊されていた。あるいは君が始末してくれたように、暴走させられた。そうなるともう、私らは荒事に向いていないのでね」 「……わかった。そういうことなら引き受けるしかないな、俺にしか出来ないことだ」 そうため息ひとつ、校長室から出て行く竜朱。 それを見届けた後、校長は電話をかける。しばらくして、相手が電話を取る。 「――ああ、私だ。 君の言ったとおりだよ。嗅ぎ付けて動いたようだ、迅速に済ませねばならんね。 彼をどうするか……か。それは私の権限ではないよ。君に一任する。最初からその手はずだろう? 勘違いしてはいけない、私には権限などない。ただお願いするだけだ。ああ、よろしく頼む。 計画は……」 そして同時刻。 浅葱と別れた田辺もまた、携帯電話を手にしていた。 「ええ、計画は前倒しに。 邪魔される訳にはいきませんからね、これは我々の悲願ですから。 月の子の誕生は――目前です」 そう言って、田辺は笑った。 「さて……どうするか」 竜朱は校舎内を散策する。 今日は休日だ。一応、校長からここの制服を借りたので自由には動けるが、しかしなるべくなら早く済ませたい。 そのとき、見覚えのある人影を見かける。修道服姿ではないが…… 「お、えーと、浅葱だっけ」 竜朱は声をかける。だが振り向いたその少女は、何かが違っていた。雰囲気というか、何かが。 「あ、いえ違います。妹の浅葱です。ええと……竜朱さんでしたよね? お姉ちゃんから聞いてます」 「……妹さんなのか。さっき道案内してもらったからついでにまた頼みたいと思ったんだが……」 「じゃあ私が代わりに……私でよければ、ですが」 「頼む。ここの図書室がでかいと聞いたから」 「はい」 数分後。 図書室に案内された竜朱は、萌葱に霊を言うと奥へと踏み入った。 (この匂い……香を微かに炊いている。それに響く音楽、そしてこの色彩の使い方……なるほど、認識をずらすカモフラージュか) 竜朱は異変に気づく。これは魔術的に偽装されたものだ。校長が言っていた結界の一部だろう。 それを踏み越え、竜朱は目的の場所へと着く。 古臭い本が並べられている部屋。 その本棚を慎重にチェックする。 「奪われた書は……ここか。GD系の……クロウリー著作の魔術書……また癖のつよい所を……」 竜朱はため息をつく。アレイスター・クロウリー。熱狂的信者と同時に仇敵を多く作ったその魔術師の残した魔術は、今も人を惹き付ける。特に黒魔術的な危ういモノを好むものたちに。 そう言いながら本をチェックしていると、並ぶ本の上に置かれていた本が手に当たり、落ちる。 「……と、落としちまった」 竜朱はそれを拾う。題名には、人工精霊トゥルパ創生の書、と書かれていた。それを本棚に戻し、そして探し始める。 「あった、この位置だ。ここにあった本は……」 本棚に記されているラベルを竜朱は読み上げる。 「……ムーンチャイルド」 夜。竜朱は校長に割り当てられた部屋に泊まっていた。 机の上にメモや書類をぶちまけて熟考する。 「昼間調べたことをまとめてみようと思ったが――よくわからん。 ムーンチャイルド……20世紀最大にして最悪の魔術師と呼ばれたアレイスター・クロウリーの考案した魔術。あれがここで行われている? バカな。ここは学園だ…… 妊婦の胎児に魂が宿る前に陣を敷き、惑星霊や天使を降ろして超人を作るというホムンクルス創造の大儀式に、未成年ばかりが集まる学校ほど似合わない場所も無い。双葉学園のような学園都市なら別だが……ここは小さく狭すぎる。 いや発想を変えるか? だからこそ、子供の火遊びの始末をした後の胎児を調達するために……いやそれもどうだ。よくある低俗な黒魔術と違い、母体ごと新鮮で元気な子供が必要だ、下ろした胎児の死体じゃ意味が無い」 竜朱は昼間のうちに聞き込みなどで調べた資料を机に並べて睨む。 「そもそもここはミッション系だ、そういう噂は調べた限りでは無い。抑圧されているからこそ水面下で、というパターンもあるだろうが……逆にそういう堕胎の手段があるならば水面下でこそ噂になって、容易に調べがつくはずだ」 人の口に戸は立てられぬと言う。後ろめたさと、そしてそれを都合よく救ってくれる希望、それが都市伝説や噂話を作り上げる。だが、そういうものは竜朱の調べた限りは無かった。 (噂……か。噂といえばもうひとつ――) 竜朱は思い出す。あの姉妹の噂も耳に入った。 (浅葱、萌葱の姉妹。仲が悪いのではないか、二人一緒にいる所を見たことが無い――という話を聞いた) 朝、自分を校長室に案内してくれた少女、そして図書室へと案内してくれた少女。双子の姉妹。 (取るに足らない他人の家庭の事情、それだけのはずが何か引っかかる……確かに俺も二人一緒に見てはいないが。 だが妹のほうの言動からは仲の悪さは感じられなかった。一緒にいる姿を見ないほどに仲の悪い姉妹が、案内しただけの男の事を話題にするか? ……考えにくい。 だがそれならば何故、二人一緒にいない。いれない理由でもあるのか?) そこまで考えて、竜朱は頭を振る。 「くそ、考えが横にそれる。今はムーンチャイルドの事だ」 頭をがしがしと掻き、背を伸ばす。 「……情報が足りないな。一日じゃ無理だ。休日の今日に片付けておきたかったが……となると明日か。明日は月曜、生徒も増える。そこで改めて……か。 仕方ないな。寝る前に散歩しておくか」 竜朱は月光の下、静謐な夜の空気を胸いっぱいに吸う。 男子寮の中庭は静かだった。 「……流石はミッション系、ってところか」 周囲は森林に囲まれ隔絶されている。ここは一種の異界だ。校長が魔術師でありどこぞの結社に絡んでいる以上は納得も出来るが、それにしても静かで、空気も澄み、まるで妖精郷を思い起こさせる。もっとも、陽光の下で花畑の中に妖精が舞う世界ではなく、むしろ森の闇の中の、恐怖と安寧が背中合わせの静寂の世界だ。 「……?」 ふと。 竜朱の目に何かが留まった。 「魂源力の残滓……?」 周囲を見回す。そう、ここは今朝、竜朱が人工精霊を破壊した場所だった。 「残骸か……いや、違う」 目を凝らす。 そこに。微かな、糸のようなモノが視えた。 「完全に潰したと思って考えにも入れてなかったが……そうか、犯人によって操られていたと言うのなら、繋がってる糸が……そこをたどれば」 完全に灯台下暗しだった。だが後悔も悔恨も竜朱の主義ではない。 竜朱は注意深くそれを辿っていく。森へと入り、木々を掻き分けていくと、開けた場所に出る。そこには小さな洋館があった。 「……怪しいな」 そう言って、竜朱は無造作に扉を開ける。錆びた蝶番が軋んだ音を立てる。 「……地下秘密基地、か。おあつらえむけの、いかにも……だな」 そして竜朱は、地下への階段を下りていった。 黴のすえた臭いと鉄錆、そして腐臭が混ざった空気が竜朱の鼻を刺激する。 「……嫌な空気だな。それに……魂源力の気配が濃密でこれ以上は」 糸を追う事は出来そうにない。だがここまでくればこの先に何かあるのはもはや決まりだ。 あとはその前に…… 「おい」 竜朱は声をかける。背後に。 「尾行ならもっと上手にやれ。足音を消せていない息も殺せていない、見つけてくれといってるようなものだ」 その竜朱の声に、 「すっごーい、やっばりこうなんというか、野生の勘ってやつですか!?」 「静かにしろバカ!」 西宮浅葱が大声で感嘆した。竜朱はあわてて手で浅葱の口をふさぐ。 「……口を塞ぐなら、男の人らしく唇で塞ぐのもアリと思うんですけど」 「このまま息の根止めるぞコラ」 半分本気で竜朱は言った。 「……というか何でお前はここに」 「いや、寝付けないので散歩してたら、おにーさんがなんか神妙なツラしてるからついつい気になって……これって恋?」 「変だ」 「ひどっ!? 漢字にすると似てるけど口に出すと一言も合ってねぇ!?」 大げさに嘆く浅葱を軽くスルーしておく。 「しかしなんかこんな所あるなんてすげーですよね!」 「そうだな」 「これはすげーですよー……地下になにがあるのか! はっ、もしかしておにーさんはそれを調べるためにやって来た秘密のシークレットなスパイとか!」 「違う。あと秘密とシークレットで重複してるぞ」 竜朱は苦笑し、言う。 「まったく、お前は本当に騒がしいな、萌葱(・・)」 「はえ? やだなー、私は萌葱ちゃんじゃなくて……」 「いや、合ってるよ。西宮萌葱」 その静かな言葉に、少女は止まる。 ただ無言。その沈黙が何より雄弁に語っていた。竜朱の言葉は正しい、と。そして竜朱は続ける。 「ああ。普通の学生である西宮萌葱、そして教会のシスターである西宮浅葱……同一人物だったとはな。 なるほどその設定なら……二人一緒に姿を見ない事への理由はつけられる。 そんな手の込んだことをしている理由は知らないが、演技は実に上手かった。いや、違うな。上手すぎたんだ」 「?」 「そう、お前は上手すぎたんだよ。まるで本当に、もう一人の人格として「西宮浅葱」を作っているかのように。俺が感じた妙な違和感、気にかかった理由はそれだ」 「……そう言ってくれると嬉しいです。私の中におねえちゃんが生きている、ってことですね、それ」 口調を先ほどまでの明るく喧しい「浅葱」から「萌葱」へと戻し、萌葱は言う。 「……その言い方。姉は……」 「はい。私には、生まれることが出来なかった双子の姉が……いたんです」 「それで一人二役……か」 「はい」 萌葱は話し始める。自分の過去を。 「そのせいで、母は心を病んで――いもしない姉に、「浅葱」に話しかける。だから私はそれを本当にするために、嘘を付き続けるしかなかった。姉は、西宮浅葱はここにいる、って。 だから私はずっと思ってたんです。私は生まれないほうがよかったんじゃないか、生まれてきたのが私みたいな暗くて駄目な子じゃなくて――母が求め、私が演じてきた、明るい西宮浅葱なら……って。 そしてそんな時に、あの本の話を聞いて……私は。 これなら、再び姉を生まれ直させることが出来るんじゃないか……って」 「待て、萌葱。お前は勘違いしている」 竜朱はあわてて言う。 「誰から何をどう聞いたかは知らないが……あれはそういうものじゃない。 あれは胎児に魂が宿る前に結界を敷き、封じ……そして天使や惑星霊などを召還し降ろし受肉させて人為的に超人を作るという、狂った発想の魔術儀式だ。思い通りの人間を造るようなものでもなく、なによりも成功例は報告されていない」 だが、萌葱は言う。 「ええ、知っています。知っているんです」 「……お前」 その静か過ぎる雰囲気に、口調に、竜朱は不吉なものを感じる。 「その方法では、確かに姉は戻りません。私が望むのは天使でも惑星霊でもない。だけど……でも」 萌葱は足を進め、そして扉を開く。 「私の細胞から作り出したクローン人間に……その「月の子」の発想を使い、アレンジして……死んだ姉の魂を召還して受肉させたなら?」 その部屋は、機械音と水泡音に包まれた異質な空間だった。 天井、床、壁を無尽に埋め尽くすコードとパイプ。 脈打つすれはまるで生物の血管のよう。そして突き立ついくつもの巨大な培養槽は内臓か。 その中は溶液と水泡で満たされ、中に何があるのかは一目では判らない。 その中の巨大なひとつに―― 「浅……葱?」 培養液の中にたゆたう、少女の姿があった。 「そうだよね、お姉ちゃん。いままでずっと待ってたけど、ついに……この時が来たよ」 「お前……何を。何をたくらんでいる!?」 竜朱が叫ぶ。だが次の瞬間、周囲の機械から気体が噴出される。 「……! これ、は……ガス……!?」 気づいたときには遅かった。視界がぶれる、膝に力が入らなくなる。 「見事に……餌に食いつきましたか」 部屋の奥からの足音と声。田辺の嘲笑を聞きながら、竜朱は倒れ伏した。 「よくやりました、西宮くん」 「……はい」 「これで邪魔者は大人しくなる。ですが彼のようなものが来たということは、感づかれている。儀式を早く完成させましょう」 「でも……」 「大丈夫です。彼女の成長は予想以上に進んでいる。毎日毎晩、君が彼女に熱心に話しかけたのが幸いしているのでしょうね。 そう、準備は整った……いよいよです」---- トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/457.html
『裸の敏明feat.裸の幼女』事件の翌日。敏明は首に痛みを覚えつつ普通に登校していた。 風呂場に突如現れた幼女は、学園からやってきた黒スーツエージェントたちに連れられていった。エージェントといっても、この双葉区においては警察よりも頼りになるかもしれない学園の職員たちだ。 学園では普通の学校とまったく同じカリキュラムの授業が当然ある。 ただ、平常授業はまだ午前のみで、午後は部活動などの紹介が入っていた。 紹介が行われる大講堂へ向かって移動する途中、中学では帰宅部だった敏明は、さてどうしようと悩んでいた。 同じように帰宅部でも良いのだが、この学園都市での生活には、部活で同級生や先輩との繋がりを持つのが、かなり重要なことだと明日羽から言われていた。 埋立地という特殊な立地のうえ、大半の事実が秘匿されているという風変わりな場所である双葉学園では、コミュニティもまた閉鎖的に、強固なものとなる。 それに、単純に仲の良い友達を作っておけば、テストや授業でサポートしあえる。 これまでそういったことはクラスメイト、もしくは巡理に頼りきっていた(特に巡理に頼る比率が高かった)敏明だが、共同生活のために家事などで頼ることが増えるのだから、負担を減らしてやらなければと考えていた。 (センパイと同じ剣道部に……) ちらりと過ぎった案は、しかし即座に却下する。 運動部、特に格闘技系はついていける自信がない。超人系異能者の中に混じっての練習など想像するだけで恐ろしい。 異能者を含めない一般生徒限定の運動部という枠組みもあるらしいが、残念ながら敏明は異能者なのでそちらには入ることが出来ない。超人系と超能力系での区別などというものはさすがにないらしい。 「よう、双葉。お前はどこ入るか考えてるか?」 そう呼びかけてきたのは敏明と同じ一年A組の大渡だった。 最初のホームルームで定番の自己紹介をしたとき、いきなりセガ信者カミングアウトから入った強者だ。親が筋金入りのセガ信者で、幼稚園のときにやっていたゲームがWiiではなくメガドラだったらしい。 ちなみに敏明は漫画好きカミングアウトという、まだまだカワイ気のある自己紹介をした。 九十年代からのジャンプ漫画網羅というちょっとしたジャブに、クラスから予想外のリアクションが返ってきたのに驚いたが、エロゲ性癖カミングアウトして生徒指導室呼び出し最速記録を打ち立てた本田クンにはとても敵わない。 触手属性仲間として今度、何か差し入れようと敏明は密かに思った。 「いや、文化部にでもしようかなってくらいだ。大渡は?」 「俺はゲーム部あるらしいから決まりだな」 「それってテーブルゲームとか限定じゃないのか?」 「それがよ、コンシューマーはもちろん、アーケードも中古で揃えてるらしいぜ。ハングオンもあるんだってよ! こりゃ行くしかねえってカンジだろ!?」 ハングオンが何かわからない敏明は適当に相槌を打ちつつ手元のパンフレットを見る。 数十もの部活の紹介が載っている冊子は、下手なオンリー即売会のパンフより厚い。 「漫研もあるだろ? 入らないのか?」 「俺読むだけで描かないし」 「んじゃ、そっちの漫画批評部ってのは?」 「うーん……真面目に批評やるような部じゃなきゃ考えるけど」 「そこは普通、真面目にやってるなら入るって言うとこじゃねえのか?」 真面目に漫画批評やってます宣言する連中とはあまり友達になれないのだという宗教上の理由を、セガ信者というネジの締め方間違ってる友人にどう説明したものか。 「……あ、センパイ」 ふとパンフから顔を上げた敏明は、一年生の行進を警護する明日羽の姿を見つけた。この後の部活動紹介にも出るのか、彼女は剣道着を身に着けていている。 防具こそつけていないが、制服や私服姿ともまた違った格好が新鮮だった。祖父が電話で言っていたように髪を後ろで結んでいる。 明日羽も敏明に気付き、軽く右手を上げた。しかし、警護任務中だからか、引き締まった表情のまますぐ他所に目を向ける。 「……なあ、敏明くん」 「な、なんで急に名前で呼ぶんだよ」 「今朝、あの先輩と一緒に登校してきただろ」 「メグも一緒だったけどな」 「入学式の後、あの先輩と二人きりで保健室にいただろ」 「ずっと寝てたけどな」 「……」 「……」 「……何があった!? いや、何をした!? 正直に言えば命だけは助けてやろう!!」 「何もしてねえよ! 家がちょっと近所なだけだ!」 本当は一緒に住んでいるわけだが、それは正直に言えば命も危ないと判断する。 「近所だったら一緒に登校するってか? 小学生の集団登校か?」 ボルテージの上がってきたクラスメイトに困惑しながら、敏明はじりじりと後ろに下がった。それと同じだけ詰め寄ってくる大渡。 ふと気付くと、背後や左右にも目を細めた男たちが集まり、敏明を取り囲んでいた。 「お前やっぱアレだろ、なんかやったな? 犯罪的なことやってビデオ撮影してばら撒かれたくなかったら言うこと聞けとか脅迫でもしてるんだろ!」 「エロ本の読みすぎだ! お話と現実をごっちゃにしちゃいけません!」 傍を通り過ぎていくクラスの女子の視線が冷たいのを気にしつつ、強引に大渡を避けて歩き出す。 「センパイとは普通に知り合っただけだ。それ以上の関係とかは何も無いからな!」 その普通に知り合うというのが難しいのだ、という恨みの篭った視線を背中に受けながら、敏明は大急ぎで大講堂に飛び込んだ。 部活動紹介を終えて家に帰ってきた敏明と明日羽は客間に胡坐で向かい合っていた。 ちなみに明日羽は制服から着替えてパンツスタイルなのでチラリとかモロリとかはそんなものは無い。 「そう、そうやって心を落ち着けて」 静かに瞑想するように目を閉じる敏明の両の手を、明日羽はじっと見つめている。 彼女の目には、通常は異能者にすら見ることの出来ない魂源力 アツィルト の流れが、光として映っている。 「そうだ。なかなか上手い」 敏明の手は、常に大量の魂源力を消費する、いわゆる常時発動型 パッシブタイプ だった。 明日羽の魂源力を見る目も、同じような常に効果し続ける異能だ。 だが、明日羽は見えたままでは日常生活の中で邪魔になる魂源力の流れを、見ずにすむような訓練をしていた。 一般的な能動型 アクティブタイプ の異能者生徒が「いかにして異能を使うか」を学ぶのとは逆に「いかにして異能を使わないか」を身につけているのだ。 そしてそれを、早急に敏明へ教えることも、彼女の敏明護衛任務の一部に含まれていた。 学園でも異能に関するレッスンはあるのだが、それを待っている暇が無いのだという。 敏明の手がどのような危険を持っているのか、明日羽はまだ詳しくは教えられていない。 どのような事態が起きても対処するようにとだけ言われている。 そのような曖昧な指示では、本当に敏明の異能が危険なのかという疑問さえ生まれそうなものだが、 (実際に目にしてしまえば、それも納得だな……) 入学式のその日、彼は明日羽の目の前で手を光らせて異能を発動させた。 そのときは光る以外には何の効果も出さずに不発に終わったが、彼女の目にはとんでもない量の魂源力が彼の手元で消耗していく様がはっきりと見えた。 大量の魂源力を一気に使い切ってしまうような異能というだけで、その異常性は感じることが出来た。 その瞬間にはただ驚くばかりだったが、今考えてみればあれはかなり危険な状態だったのではないかだろうかと、今更ながらに明日羽は思う。 それと同時に、あのとき見た敏明の後姿は……大量の魂源力の渦を伴い、彼女を庇うように前に出た少年の背中は、そこだけ切り取ってみればとても頼もしかった。 明日羽は刀を手に、最前線で戦うタイプの異能者だ。実戦でそれなりの数のラルヴァを倒してもいる。 そんな中で、男性が盾になって自分より前に出てくれた経験というのが、今までは無かった。 結果は敏明が攻撃を受けて気絶するという情け無いものだったが、少しくらい感謝するのが筋というものだろう。 「センパイ? どうかした?」 明日羽はいつのまにか長いこと思考していたらしく、敏明に問われ慌てて取り繕う。 「あ、いや……飲み込みが早いな、敏明クンは。まだ完全とはいえないが、この調子ならかなり早く制御を身につけられそうだな」 「センパイの教え方がいいんじゃないか?」 「いや、教えるというのは難儀なものだ。私は剣道以外には人に教えたことなど無いからな」 「剣道は教えてたんだ?」 「そうだ、話していなかったね。私の実家は道場だったんだ。そこで自分より小さい子にはちょっとしたコーチをな」 「へぇ……ちなみに何流とかあるの?」 「普通のスポーツの剣道だよ。竜とか虎とか熊とか付くような技があったりはしないからな」 「はは、センパイもそういう漫画とか読むんだね」 「兄弟子たちに勧められてな。少女漫画よりもそっちのほうが読んでいたよ」 「むー、なんか良いフインキー」 「うおっ!」 突如として真後ろから聞こえてきた声に、敏明は思わず振り返りながら飛び退いた。 その時、驚きのせいか彼の手は咄嗟に光を放つ。 「わ」「あ」「ぬ」 突然の出来事に三者三様の声が漏れた。 バランスを崩した敏明が明日羽を押し倒しつつ彼女の胸をしっかりと鷲掴んでいた。 「シッ」 咄嗟の反撃は昨晩四番目のラッキースケベ時と同じく手刀だ。 「うぐ」 「……すまん、またやってしまった」 首筋を打たれた敏明がぐったりと倒れた。明日羽は申し訳なさそうに眉根を寄せた顔で見つつ、届かない謝罪を告げる。 起き上がり、敏明を仰向けに寝かせなおしていると、巡理が唸り声を上げた。 「……むー」 「山崎、どうした?」 「いつのまにとっしーと仲良しになったの?」 「は? 仲良し……に見えたかい?」 「だって今タメ口だったし、下の名前で呼んでるし、なんか和やかな会話が繰り広げられてたけど」 「これから一緒に暮らすわけだからな、普段から堅苦しく過ごすのは息が詰まるだろう」 それ以上の意味は無い、ということを言っても巡理は納得していないようだった。 「それだけかなぁ……」 明日羽は少し迷ってから、表情を改めた。真面目に、少し目元を細めて。 「……君が今までずっと彼の守護者だったというのは、聞いているよ。それなのに急に護衛を増やすことになったというのは、腹立たしいことかもしれない」 「……」 反応は沈黙。肯定はしないが、否定もしない。 「だけど、私は別に君の居場所を取りたいわけじゃない。与えられた任務はこなすし、敏明クンとも仲良くやって行きたいが、君を追い出すようなつもりはないとも」 「……ウン」 「それに、出来れば君とも上手く付き合いたい」 そう言って差し出された明日羽の右手を、巡理はすぐに握り返す。しかし、 「……ずるいなぁ」 「ずるい?」 「センパイって良い人なんだもん」 なんと応えればよいのか困り、明日羽はごにょごにょと小声で、そうかい、と呟く。 和やかな雰囲気が流れ……かけたところで、 「でも負けないからね!」 巡理がややこしいことを言い出す。 「……勝ち負けの話はしていなかったと思うが?」 「とっしーは渡さないんだから!」 「わ、渡さないって、一体何の話だ!?」 「だから、とっしーの一番は譲らないよ」 「敏明クンの一番……って、それはまさか」 「……ぅぅ」 二人の叫び声のせいか、敏明が目を覚まして唸った。痛む首をさすりながら起き上がる。 「ご、誤解があるようだ。その話はまた後で」 明日羽は巡理にだけ聞こえるように小声で言うと、そそくさと立ち上がった。 「あー……ごめんなさい」 敏明の謝罪にも小さく頷きを返すだけで客間を出て行く。 その様子は、敏明には怒っているように見えた。 「嫌われちまったか?」 「いきなり胸握られたのを、チョップ一発で済ませるほうがおかしいよね」 「やっぱそうだよな……あー、どうすりゃいいんだ俺」 巡理は何を考えているのか、明日羽の去った後をしばらく見つめていた。 「……おかしいよね」 「ん? どうした?」 「ボクの胸なら揉んでも笑って済ませてあげるよ」 「揉めるほどの大きさはn、ウソごめんなさアッー!」 自室に戻った明日羽は、ベッドに仰向けに倒れるように寝転がった。 「何故、後でなんて言ったんだ、私は」 先ほどの巡理の発言は、勘違いの末の無意味な宣言だ。 明日羽も年頃の娘なので色恋沙汰というのに興味がないわけではない。だから、巡理の言葉の意味がわからないなどという朴念仁なことは無い。 しかし、敏明に対してそういう感情は持っていないので、巡理が奮起するようなことはなにもないのだ。 敏明が目を覚ましたからといって気にせずに、その場でそう説明すれば済んだ話のはずである。 それをせずに話を先延ばしにした上、逃げるように出てきてしまった。 おかしいと思われただろう。巡理だけでなく敏明もどう思っていることか。 なにより彼女は自分で自分の行動をおかしいと思う。 「……どうしたものか」 自分で自分がわからないのに、どうするもなにもない。 「敏明クンの一番、か」 巡理の言っていた言葉を反芻する。 一番ということは二番があるのだろうか。 いや、そんな問題ではない。 別に私は彼の特別な存在になりたいわけでは、いや、護衛する人間という立場で言えば確かに特殊だが。 それに、渡す渡さないなどというのは敏明という一個人の人権を無視した言葉であって……云々かんぬん。 少し見当違いな方向に思考が飛んでいく程度に、明日羽は混乱していた。 入学式で出会ってから二週間ほど、これまでそういった意識をせずに、護衛対象の後輩の男子くらいに見ていた相手。そのはずだ。 だからこそ、同じ家に住むことにも了承したのだ。家賃免除という利点が無いことも無いが。 「そういえば……今日も大講堂で」 入学式のときのように、新入生全員を集めた部活動紹介が行われた。 自分もあの時同様に新入生の列を警護し、その中に敏明の姿を見つけて手を振った。それはいい。 そのすぐあとに聞こえた敏明の声。 『センパイとは普通に知り合っただけだ。それ以上の関係とかは何も無いからな!』 何の話をしていたのだろうというのは気になったが、警護任務に集中していたため、あっさりと聞き流していた。 彼の言っていることには嘘が含まれてはいるが、同居して護衛している関係だなどとクラスメイトに言ってしまえば話がややこしくなるのだろうということはすぐにわかったので構わない。 でも、ただの知り合いだと言われたことを改めて思い返すと、 「……はぁ」 少しガッカリして、溜息を吐いているいる自分に気付いた。 一度、巡理の言葉によって見方を変えさせられてしまうと、どうしても男として気になる。 それは「私の服をお父さんの靴下と一緒に洗濯しないで」的な、年頃の娘ゆえの当たり前の反応なのか。 それとも明日羽という一女子から、敏明という一男子への特別な反応なのか。 そんなことは無い。無いはずだ。ぶっちゃけありえない。無いよね。たぶん。 「……~~っ」 強く否定しきれない自分の思考に、耳まで真っ赤になってベッドの上をゴロゴロと転がる。 その仕種はまるっきり恋する乙女のそれだが、明日羽はまったく気付かず、ベッドから転げ落ちて顔面を強打した。 その時、控えめにドアをノックする音が聞こえてきた。 どすっという、妙な物音が明日羽の部屋から聞こえてきて、敏明はノックしようとしていた手を止めた。 まさかぬいぐるみなどを木刀でしばきたおしている音だろうか、という勝手な想像で回れ右しそうになるが、なんとか思いとどまる。 左手にはお茶と茶菓子を乗せたトレイ。お詫びの品を携えて改めて謝罪をするつもりだった。 そっとドアを二度叩く。 「は、はい!」 「敏明です。お茶を持ってきんだけど、どうかな?」 「あ、わ、す、少し待ってくれ!」 やたらと慌てた返事の後、バサバサと色々な物音が聞こえてきた。やっぱりぬいぐる木刀か。 静かになって、ドアの隙間から明日羽が顔を覗かせる。 「お茶か、いただこう」 いつも通りの様子でそう言って見せるが、 「センパイ、鼻が赤くなって……」 「なんでもない」 「けど」 「なんでもない」 「……おジャマしてもいい?」 「ああ……どうぞ」 明日羽の部屋はその居住まいに相応しく綺麗に整頓されていた。昨日運び込んだばかりのダンボールが折りたたまれて隅に積んであったが、たった一日で荷解きを終えているのがすごい。敏明などは未だにあけていない箱がある。 見回してみても木刀は見当たらない。そうか、素手か。 小さな折りたたみ式のちゃぶ台を挟んで、二つのクッションが向かいになるように置かれていた。 敏明はトレイをちゃぶ台に乗せ、クッションに浅く座る。 明日羽も同じように座ろうとして、何故か少し躊躇ってからクッションに乗らずに畳に直に座った。 なんだろうと思っている敏明の前で、彼女はクッションを拾い上げると、抱くようにして体育座りになる。 その時、敏明に電流走る……! (これはなに? ナンデスカコレハ!?) まさに『女の子』としか表現できない座り方だった。しかも何故か両手でクッションの端を弄って手遊びをしている。 昨日から同居しているとはいえ、敏明は普段の明日羽の姿をまだほとんど見てはいない。 日頃の言葉遣いや刀捌きなどからは想像も出来ないが、これが彼女の素という可能性もある。 だがあまりにもギャップが大きすぎて、敏明の思考はしばし、ざわ……ざわ……していた。 「あ、あの、センパイ?」 「なんだ?」 「さっきのことなんだけど……」 「さっき?」 聞き返した明日羽は表情を真顔から変化させることなく数秒沈黙し、それから急に頬を紅潮させた。ふいっと敏明から視線を外してそっぽを向き、クッションに火照った頬を埋める。 「気にしてない」 「でも……」 「それ以上その話をしないでくれ!」 「ハイ! スイマセン!」 (話をされるのも嫌なほど怒ってるのか……) そりゃそうだと納得しつつ、一応謝罪の言葉は口に出来たのでよしとして、敏明は別の話題を考えた。 「……昨日の子供、結局どうなったのかな」 風呂の中に寝ていた幼女は、明日羽が呼んだ学園関係者によって、敏明が気絶している間に連れて行かれた。家出にしろ迷子にしろ、双葉区内のことなら学園に任せれば大体は片付くはずだった。 明日羽はまだ頬を赤く染めたまま、少し眉尻を下げる。 「あれは、ただの子供ではなかった」 「え、どういうこと?」 「……昨晩、あの子供は……君から大量の魂源力を吸い上げていた」 「は?」 「それがどういうことなのかはよくわからないが、異能者なのは間違いないだろう」 「あんな子供が?」 「生まれたばかりの赤ん坊も異能を身に着けていれば皆、異能者だ。その力に目覚めるタイミングが少し違うだけでね」 「ふうん……それで、家にはちゃんと帰してもらえたのかな」 「いや、そうならそうと連絡があっていいはずだが、まだ何も言ってこないな」 「まあ、気が付いたらウチにいたわけだし、どこから来たのかわからないからなぁ」 今朝方、敏明の祖父でありこの家の持ち主である双葉管理にも電話で話をしてみたが、まったく心当たりがないということだった。 「すぐに家に帰れることを祈るばかりだ」 「そうだなぁ」 そこで話題が途切れ、二人は同時に湯飲みに手を伸ばす。 一口啜りほうと一息つき、茶菓子のアラレをぽりぽりとよく噛んで味わう。 (……ど、どうしよう) 敏明は何故だか無性に焦りだした。 とりあえず謝らなければと思ってお茶を持ってきたはいいが、それにほぼ失敗した上、これからどんな会話をすればいいのか、まったく思いつかない。 しかもよく考えると、個室で女子と二人きりという状況は、生まれて初めてかもしれない。巡理を除いて。 敏明はちらりと横目で明日羽を見やる。すると同じように明日羽も敏明を上目遣いで見ていた。 二人の視線が絡む。敏明はすぐさま目を逸らした。 (気まずすぎる! なんでもいいから話題! 話題!) 「センパイ」 「な、なんだっ?」 心なしか明日羽の声も裏返っていたようだが、それを気にする余裕も無く咄嗟に思いついた言葉を吐き出す。 「ええと、魂源力って何?」 出てきたのは、色気も何もない疑問だった。 「……難しい質問だな」 「難しい?」 明日羽の一転して低くなった声に、敏明も神妙に聞き返す。 「魂源力や異能というのは、科学的な研究が未発達な分野だ。学術的な意味では、未だに正体不明というのが魂源力に対する結論だね」 「つまり、よくわかってないってことか」 「有体にいえばそうなる。私は魂源力を見ることが出来るが……それでもわからないことも多い」 明日羽の瞳にぼんやりと薄青い光が灯る。 それが彼女の異能が発揮されている合図だと、敏明はすぐに気付いた。 「そこら中に、魂源力はある。薄かったり濃かったり、流れていたり滞っていたり様々だ。異能者やラルヴァが放つこともあるし、吸い取ることもある。たまに、異能とは関係ないような自然物なども魂源力を生み出したりもするが」 「うーん……聞けば聞くほど漠然としていく……」 「考えるな、感じるんだ」 「……はは」 「な、なんだい? その微妙な笑いは」 「ごめん。センパイからそんな古典が出てくるとは思わなくって」 「おかしかったかな……」 そういって苦笑を浮かべる明日羽を見て、敏明はまた声を出さずに笑う。 そうして笑っていると、なぜかさっきまで喉の奥に詰まっていた言葉が自然と流れ出てくる。 「センパイ、漫画読むんだよね? 最近はどんなの読んでるの」 「いや、あまり最近は……そんなに色々と読むほうでもないんだ。金銭的な意味でも厳しいし」 「そうなんだ。俺のオススメでよければ貸そうか?」 「いいのかい? どんなのがあるのかな」 「たくさんあるよ、ジョジョ全巻とか。ハンター×ハンター……は実家に置いてきちゃったか」 「あれは完結したのかい?」 「さあ……たぶん、した……んじゃないかな」 その後、二人は敏明の部屋に移ってしばらく漫画談義に花を咲かせていた。 巡理が夕飯の支度が出来たと呼びに来るまで、二人の話は続いた。 リビングに出ると同時、敏明と明日羽は衝撃に襲われた。 まず鼻を直撃する芳香。そしてテーブルの上の鮮やかな彩り。 そこには麻婆豆腐やエビチリ、チンジャオロースといった日本人に愛されている中華料理が並んでいた。 マーボー豆腐はぷるんとした食感が見た目からも伝わるほどつやめき、山椒の香りが立ち上っている。 エビチリもごろりとした海老によく餡が絡まっていた。 チンジャオロースはプロの技かと思うほど細く刻まれ、ピーマンの鮮やかな緑が油で照り光っている。 どの料理も見た目や香りから、一般家庭でよく使われる丸味屋や味の素の中華料理の素ではないことがわかった。きちんと別個の調味料で巡理が味付けしているのだ。 「なんだ、やけに豪華だな。気合いはいりすぎじゃないか?」 「そんなことないよー」 簡単に言ってのける巡理の額には玉の汗が浮いていた。Tシャツがちょっと汗で張り付いていてセクシーになっていたりするが敏明は気付いただけで特に何も言わずテーブルに向かった。 「今日は何かお祝いかい? 誰かの誕生日とか」 「ううん、普通に作ってみただけだよ。食べ盛りが四人もいるしね」 巡理の言葉に、敏明と明日羽は顔を見合わせた。 「そういえば、昨日また一人来てたな」 「ああ、私もまだ詳しいことは聞いていなかったんだが」 「高田春亜ちゃん、中学一年生だよ」 「ちゅういち!?」 敏明は叫びつつ、昨晩風呂場で出会った女性を思い出す。あの後ろくに話をする間もなく気絶し、朝になったら春亜はすでに家を出た後だった。 記憶に残っているのは金髪と見事なおっぱいだけだ。 「……なに、トッシー?」 つい巡理の胸元を見ていると、低い声で訊ねられ、なんでもないとだけ答えた。 やっぱ犯罪になんのかなぁと思いつつ、三歳下の少女に護衛される自分ってなんだろうという疑問についてしばし思考を巡らせる。 「もう帰ってきてるのか?」 「うん、さっきお風呂あがってきたからすぐ来ると思うよ」 と、そのとき廊下から鼻歌と足音が近付いてきた。 「ごっはん、ごはーん♪」 「噂をすればなんとやらだな」 みんなが注目する中リビングに現れた春亜は、バスタオル一枚巻いただけの姿だった。 「なっ」 「お、おいしそー。何? 今日ってパーティ? ひょっとしてアタシの歓迎会とか?」 「……あの、高田さん?」 「さん付けってなんかやだなぁ」 「……高田、服をちゃんと着てこい」 「えー、いーじゃんべっつにぃ。子供にヨクジョウするような変態さんがいるんならアレだけど」 春亜の言葉に敏明は反論しづらい。どんな言葉を使ったとしても、自分が変態だから危ないと言うようなものだ。 それを見かねたのか、単に気に入らなかったのか、明日羽が代わりに窘める。 「高田。女の子がそんな格好ではしたないぞ。食事のときにはきちんと服を着るものだ」 「むー、しょうがないなぁ」 言いつつ、いきなり体からバスタオルを剥ぎ取る春亜。 「なっ!」 瞬間、 「目が! 目があ!」 敏明の右目を明日羽の手が、左目を巡理の手が見事に塞いでいた。どちらも勢い余って指先が少し目潰し入っている。 「おおお……二度ネタもダメだと思う……」 「あっはっはっは、何してるのおネエちゃんたち」 苦しむ敏明を見ながらケラケラと笑う春亜は、チューブトップにホットパンツといういでたちだった。バスタオルの下にちゃんと服を着ていたのだ。 「紛らわしいことを……」 「いやぁ、面白いね。気に入っちゃったよ、とっしーのこと」 「とっしー言うな。つか危ないから自重してくれ、いろんな意味で」 「ジチョウってなに? おいしい?」 がっくりとうなだれる敏明を尻目に、春亜はさっさと席に座る。 「いただきま~す」 勢い良くおかずを頬張り、白米をぱくぱくと口に放りこんでいく。 その食べっぷりに毒気を抜かれた敏明たちは、同じように食卓に座っていただきますと唱和した。 夕餉の味は抜群だった。 なんかラルヴァとか異能とかどんどん遠ざかってるような……次あたりバトらないかんかな。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/1239.html
ラノで読む 然程大きくない武者窓から漏れ出す春の日差しが、用務員室内を照らし出す。 その陽光を汲み取り、まぶしい程の光を反射させる頭部を備えた老人は、ちゃぶ台の前で足組《あぐ》み、 左手に持った新聞紙を読みながら、のんびりと煎茶を啜《すす》っていた。 完全に気も抜けた状態で、大きくため息をついた後に目を瞑ると、 春の陽気にあてられたのか、船を漕ぎ始める。それと同時に何の前触れもなく用務員室のドアが開かれた。 「あの、園芸用の道具をお借りしたいんですが」 突然の出来事に、老人の頭部から反射した光は無作為に室内を暴れまわる。 その光源であった双葉学園用務員の国守鉄蔵《くにもりてつぞう》は腰を浮かせ、背後に振り向いた。 「うわっちゃ、あちゃ熱っち!! な、なんじゃいお嬢ちゃん、藪から棒に」 唐突に声をかけられた事に動揺したのか、鉄蔵は右手に握っていた湯呑みからお茶をこぼし、手の甲にそれがひっかかっる。 空を切り、手にかかったお茶を振り払い、口を窄《すぼ》めて必死になりながら、手に息を吹きかけると声の主に問い返す。 「園芸用の道具? まぁ、わしゃ構わなんだが、そんなモン何に使うんじゃ?」 声の主はまだ若い少女だった。無邪気さを残しつつもその顔立ちからは、優しさと滲み出る母性がある。 鉄蔵が問い返すと少女は少し慌てたかのように両手を大きく仰ぎながら理由を述べた。 「いえ!! あの……そう!! 中等部の区内ボランティアで公園の植物の整備に使いたいんです」 「ほぅ、区内ボランティアか。そいつぁ大したもんじゃ。直接来たっちゅう事は事前に総務には話を通してないっちゅう事か?」 「う、はぃ、そうなっちゃいます」 少女は視線を反らし両手を組むと、人差し指をくるくると弄ぶ。 その様子を見ながら、鉄蔵は顎をさすり少し眉尻を下げて言った。 「園芸用の道具で何ぞ問題が起きる事もないかの……まぁ、ええか。 とりあえず、道具が入り用になった時の為に、わしになんぞ連絡先とかを教えといて貰えるとありがたいんじゃが」 そう言うと鉄蔵は立ち上がり、黒電話の横に置いてある自作の藁半紙のメモ帳と、やや短くなった鉛筆を少女に手渡す。 少女は園芸用の道具を借りる事ができるのが余程嬉しいのか、瞳の中の光は目映い煌めきを放ち、満面の笑顔を浮かべた。 鉄蔵は園芸用の道具を収納している倉庫まで少女を案内し、道具一式を手渡す。 少女は幾度と無く謝辞の言葉を並べながら、去り行く時ですら何度も振り向き、感謝の意を示すように頭を垂れた。 遠ざかるにつれ小さくなる少女の背中を見つめながら、鉄蔵は一人何度も頷くのであった。 その日から少女は毎日、用務員室を訪ねてくるようになった。 少女が訪ねてきた初日がそうであったように、少女は鉄蔵の気が完全に抜け去り、呆けている時に限って訪ねてくる。 その為、鉄蔵は度々腰を抜かしそうになったが、そんなやりとりを数日も重ねると、慣れてきたのか、 少女がドアを開けると同時に手ぬぐいを放り「お勤めご苦労さん」と声をかける事ができるぐらいになった。 また、少女は道具を必ず当日に返却してきた。道具の消耗度合いは激しかったのだが、できる限りの修繕や清掃が目に見て取る事ができ、 それがまた鉄蔵を嬉しくさせた。 その事もあってか、仕事のうちの一環でもある道具の再点検や備品管理の帳簿をつける面倒な作業も、鉄蔵は然程苦に感じる事も無かった。 ──そんな日々が過ぎ、桜の花が満開になる頃。 中等部のボランティア活動で使う為に園芸用の道具を貸して欲しいと、いつも訪れている少女とは別の少年が用務員室を訪ねてきた。 以前訪ねてきた少女とは違い、事前に総務から貸与許可申請の通達が降りていた事に、 やっと少女は手続きの仕方を覚えたのだなと鉄蔵は納得していたのだが、 園芸用具を借りに来た少年に鉄蔵が少女の事を問いかけると、全く予想外の反応が返ってきた。 「相沢ナナミ……さんですか? いや、そんな子はうちの区内ボランティアメンバーにはいなかったと思うんだけどなぁ~」 「──へ、あ? そ、そうじゃったかの。あのお嬢ちゃんは全然違う活動してた子じゃったかもしれん。 うは、うははは。いや、なんじゃ、歳はコワいのゥ、うひゃ、うひゃひゃひゃ」 目を泳がせ、鉄蔵は口元を小刻みにひくつかせながら乾いた笑いを浮かべると、頻《しき》りに顎をさすった。 少年が去り、鉄蔵は用務員室のちゃぶ台の前で足組みながら、ひとしきりの時間唸り続けると、おもむろに下駄を履き用務員室の外に出た。 外に出ると緩やかな春風に運ばれて、春を思わせる植物の香りが鼻腔をくすぐった。 鉄蔵は上着と下着の隙間からヘソが出る程に反り返り、両腕を大きく開いて息を吸い込むと、持て余している腕に繋がる両手で、その両頬を思い切り叩く。 乾いた空気が辺りに響きわたると同時に両目を見開き、上着を脱ぐと爺むさいシャツが露わになる。脱いだ上着を腰に絡め、それをきつく巻き上げた。 「──なんぞ困っとるんなら相談してくれりゃいいモンなんじゃが……そうもいかんかの……」 少し近くに感じる太陽の光は軟らかで、鉄蔵にはそれが少し、空と融け合っているように感じられた。 時を同じくして、双葉区の公園に在る満開の桜達は、未だ花開く事のない一本の桜と、 その桜の幹に背を預け、安らぎの中で夢を見る少女を見守るように、咲いていた。 緩やかな春風は桜の木々と触れ合うと、その枝葉は優しく少女に語りかける。 その声に気づいたのか少女は瞳をゆっくりと持ち上げると目の前の桜達に語りかけるかのように言葉を紡ぎだした。 「……私、寝ちゃってたんだ」 少女が小脇に抱えていた鞄が震えたかと思うと、その鞄の隙間から、するりと純白のオコジョが抜け出てきた。 その毛並みに一切淀みは無く、常日頃から清潔に保たれている事が伺える。 オコジョは鞄を蹴ると、俯いている少女の膝の上に素早く乗り上げ、短く鳴いた。 (慣れない事が続いていたから、少し疲れちゃたんだねナナミちゃん) 「……ティル。うん、そうかもしれないね。でも、私がもう少し頑張らないと」 ティルと呼ばれたオコジョの名は、シルバーティルという。 正確にはオコジョでは無く、オコジョ型のラルヴァではあるのだが。 そのシルバーティルの伝えたかった意志を、ナナミと呼ばれた少女はそのまま理解していた。 それは少女の特異性、異能によるものだった。 ナナミは立ち上がり衣服に付いた土埃を両手で払うと、今し方背中を預けていた桜に向き合い、悲しげな表情を浮かべ、物言わぬ桜に語りかける。 「……お願い、せめてもう一度。今私が貴方に出来る事だけでも、教えて」 ナナミは両手で桜の幹を優しく包み込むと瞳を閉じ、桜が再び語りかけてくる事を信じ、思い出す。 * 数日前、双葉学園から住まいである寮への帰宅する時の出来事。ナナミは一本の桜の開花を見つけた。 学友達はそれに気付く事は無く、誰よりも早く春の報せを見つける事が出来たナナミはそれが少し嬉しかった。 学友達と別れ、宝物を探すような、そんな気持ちでいつもとは違う道程を歩み、帰宅の路を歩む。 その帰り道、区内にある森林公園を通ると、数多の桜が開花し始めている事を見つけナナミの胸は更に高鳴った。 ほんの少し意識を乗せると、公園全体から響きわたる歓喜の歌。 辺りの植物達に導かれるように公園の中を歩いている最中、桜が立ち並ぶ公園の一角で、ナナミは違和感を覚えた。 立ち止まり、もう一度桜達の声に心を通わせると、確かに聞こえてくるのだが、 背後から聞こえてくる歌声は何かに遮られるように、僅かに力が感じられなかった。 ナナミは息を飲み、振り返ると、辺りの景色はナナミの意識から切り取られ、白く霞む。 視界には、力無く佇む一本の桜の木の存在だけがあり、それはナナミの心を捕らえた。 「──歌が、聞こえてこない?」 沈黙する桜の根本に近づくと、少し頼りなげに空に手を伸ばし続けている、その桜の枝を見上げた。 「貴方はどうして、歌わないの?」 ナナミは物言わぬ桜に問いかけるが、桜は何も語らない。 「なんで、声が聞こえないんだろう」 (もしかしたら何かの病気で弱っているのかな? それで上手く意志の疎通ができないとか) 少女が持っていた鞄の隙間から、シルバーティルの鳴き声が何度か聞こえてくる。 「そうなのかな……」 ナナミは再び桜の幹を見つめると、赤子を慈しむ母親のように、その幹に触れる。 「貴方は何かの病気なの? もし私に何か出来る事があるなら、教えてくれると嬉しいな」 長い年月をかけ、その年輪を増やしていった、桜の幹に両手を添える。 冷たく、硬くなった樹皮の感触が両手に伝わる。桜が持ち得る感情に出来る限り心を重ねる。 心から桜を労《いたわ》るナナミに呼応するかの様に、その桜の深い感情は一閃となって少女の身体を貫いた。 一瞬の出来事にナナミは我を忘れ、目を見開くと、その場にしばらく立ち尽くす。 そんなナナミの様子に気がついたオコジョのシルバーティルは、鞄の隙間からするりと抜け出し、 彼女の腕を伝って肩に乗ると、甲高い声を上げ、何度か鳴いた。 その鳴き声に意識を取り戻したのか、シルバーティルの顔を見つめると、顔を青ざめさせながら訴えかける。 「──どうしよう!! どうしよう、どうしよう!? 声は聞こえてきたのに、何をすればいいのか解らないよ!!」 叫ぶように訴えかけるナナミを落ち着かせようと、シルバーティルはその体を使うと、 彼女の首もとに器用に巻き付き小さな顔を使ってその頬を撫でた。 (ナナミちゃん、落ち着いて。まず、聞こえてきた言葉を僕にも聞かせて。 その後、一緒に考えよう? そうすれば、僕たちが今出来る事。その答えを見つけられるかもしれないよ) ナナミの表情は嘆きとも悲しみともつかぬが、酷く落ち込んでる事だけは見て取れた。 シルバーティルの言葉に納得したのか、ナナミは何度か頷き返すと、落ち着きを取り戻し、静かに言葉を紡ぐ。 「うん……聞いて」 ナナミの声を聞き漏らすまいと、辺りに植えられている桜の枝葉が擦れる音が、風が止むと同時に静まりかえった。 「この子の、ただ一つの、純粋な願い」 在りもしない神に。その願いを伝える事を、躊躇《ためら》うように。 * 「『──咲きたい』」 ナナミの言葉を聞き届けると、沈黙していた桜達は、再び各々の歌を歌い始める。 その歌には、今ナナミが抱いている桜が混ざる事は無い。 桜の言葉を胸に、今日に至るまでの間、ナナミは学園の図書室で様々な本を読み、桜の生態やそれに関わる病気を丹念に調べた。 手にした本の多くは専門的な知識や、中学生が理解するには難解な用語ばかり。 生中な知識で行動を起こしたとしても現状を悪化させるだけだと気付くと、せめて自分が出来る事だけでもと、下草刈りを行う事を決めた。 しかし、寮住まいのナナミは、それを行うにあたり十分な道具を持っていない。 如何にして手早く道具を調達するか考えた末、シルバーティルが打ち出した案の一つを採用し、学園から道具を拝借する事となった。 道具を借りる際に会話の流れで用務員の老人に少し嘘をつく事にもなってしまったが、 無事に桜の花を咲かせる事が出来たのなら、その事を含め、後に御礼を言おうとナナミは考えていた。 だが、未だ桜の花は咲くこともなく、徒に時は過ぎ、今に至る。 「まだ、もうちょっと、私の頑張りが足りないのかな」 ナナミは首を傾げると軽く拳を握り、それで自分の頭を小突くと含羞《はにか》んだ。 「私、まだまだ頑張るよ!! 元気になったら必ず……貴方の歌を聞かせて!!」 (僕も出来る事なら、君の願いを叶えるお手伝いをしたいな) 両手を大きく広げ、ナナミは精一杯叫ぶ。ナナミの意気込みに感化されたシルバーティルも、 鞄の中から中途半端に顔を出し、高速で左右に揺れる、暴走したメトロノームの様に首を振った。 必ずこの桜の願いを叶えようと、その決意を改めて心に刻み込む。ナナミが叫ぶと同時に、 息が詰まりそうな程の大量の桜の花びらが風に吹かれ舞い上がった。 「──心優しき娘子よ……その桜の御霊が遙か隠れ世に在っても、尚その身は健気に尽くすのか」 桜の花びらに圧倒され、笑顔を輝かせていたナナミの背後に、一人の童女が姿を表す。 その上半身を隠すのは不格好な晒し木綿、黒髪は辺りの光を吸い込むように艶を帯び、どこかいびつな、出来損ないの巫女。 童女は淡紅色の霧の中に佇んでいたのだが、何故か桜の花びらは彼女の体を避け、ひらひらと渦を巻きながら地面へと落ちる。 不意に声をかけられた事にナナミは驚いたが、童女の言葉の意味を計りかね、少しだけ屈《かが》むと童女に視線を合わせて語りかけた。 「(スゴい格好の女の子だな……こんなちっちゃい子がコスプレ?) えーっと……ごめんね、少し聞いてもいいかな、桜のみたまが遙かなんとかにってどういう意味なの?」 「ここ幾日もの間、その身一つを以て献身の限りを尽くしてきた娘子の行いを望む我も、辛かった……苦痛じゃった」 童女は、無邪気に問いかけるナナミを見つめる。 「楽になりたいが為だけに、幼子の夢踏みにじる我を許せ」 童女の口からナナミに伝えられる言葉《ことのは》は、ただ伝える為だけの言葉《ことば》として繰られる。 しかし、その繰り手は冷酷に、表情を変えることもなく、 「ねぇ、どうしたの? なんでそんなに──」 「娘子よ……その桜は──」 ただ静かに涙を流していた。 * ゴムと鉄が凄まじい速度で擦れ、甲高い音が響きわたる。 慣性に従い、車体の後輪は、跳ね回る事を止めた前輪に引き留められ、勢い良く砂利を跳ね上げた。 車体を斜めに、その勢いに任せ片足を地面に下ろし、下駄の鼻緒を足の親指と人差し指で力強く挟み込む。 「ケンゾー、ここにあの嬢ちゃんがいるんかィの」 「ばうばう!!」 国守鉄蔵は桜が咲き誇る双葉区の公園入り口にいた。 自転車を公園の駐輪所に止めると、鉄蔵の飼い犬である柴犬のケンゾーが急かすように鉄蔵のリードを引く。 ケンゾーが強くリードを引く度に、その首もとの将棋の駒の様な五角形の名札は激しく揺れた。 「わかっとるわかっとる、ほんに頼れる名探偵様じゃわィ」 ケンゾーに導かれるままに鉄蔵は公園の一角に訪れると見知った顔の少女が、咲く事のない桜の根本で膝を抱え座り込んでいた。 鉄蔵は少女のすぐ側まで近づくと、少し困った表情を浮かべる。 「てっきり今日も元気に土いじりでもしとると思ったんじゃが、そんなにしょぼくれてどうしたんじゃ」 「……用務員のお爺さん」 ナナミは鉄蔵の顔をちらりと見ると、 再び地面に視線を落とし、右手で桜の花びらを摘んでは落とすといった行為を繰り返す。 「……すみません。私、色々とお世話になったのに、駄目だったみたいです」 ナナミの言葉を聞きつつも、鉄蔵は横目で辺りを見回す。 辺りの桜と比べると、ナナミが背にしている桜の周りだけが手入れされている事に気付いた。 「ふむ。お嬢ちゃんがここんとこ、園芸用品を借りに来ていた事と何ぞ関係があるんかな? 土いじりならワシも少しは手伝う事もできるじゃろうて」 ナナミは気力を振り絞り、曖昧に返事をすると、力無く数日の出来事と今し方の出来事を語り始めた。 咲かない桜の願いを知り、惜しみ無い愛情を桜に注いだが、全てが遅く、無駄だった事を。 「一人のラ……いえ、女の子からそれを聞かさた時は私も信じたくは無かったんです。 でも、あの女の子はそんな嘘を付く必要なんて無いですもんね。 たぶん、一人でバカみたいに汗流してる私を気遣って、もう駄目な事を教えてくれたみたいでした、えへへ」 「そうじゃったか……」 ナナミを励ます事が出来れば、どれほど気が楽になるだろうか。 鉄蔵はそれ以上に話を問い返すこともなく、桜の花びらを摘んでは放るナナミの手元を見つめる。 その時、鉄蔵とナナミの間を、一陣の風が駆け抜け、ナナミの手元を離れた桜の花びらが中に舞う。 幾つかの花びらは風に手を引かれると大空へと旅立っていった。 「『咲きたい』か……」 鉄蔵はその花びらを目で追い、空を見上げると、大きく溜息を漏らした。 * 桜の下で鉄蔵がナナミの話を聞いてから二日が経った。 用務員室に据え付けてある黒電話を頬にあて、重苦しい表情を浮かべながら、電話の向こう側にいる相手と鉄蔵は会話をしている。 しばらく会話を続けていると話しがまとまったのか、鉄蔵は受話器を電話機の本体に乗せた。 座布団の上に腰掛け、急須から湯呑みにお茶を注ぐと、それを一口呷り、呟く。 「そろそろ、来る頃だと思うんじゃがのぅ」 鉄蔵が呟くと同時に、用務員室のドアを開き現れたのは、気落ちした表情の相沢ナナミだった。 「道具の返却が遅れて、ごめんなさい!! ちょっと気持ちの整理が出来なくって遅れちゃいました……」 頭を下げるナナミに背を向けながら、鉄蔵は湯呑みに口をつける。 ちゃぶ台の上の新聞紙を手に取ると、両手でそれを広げ、大きく咳払いをした。 「色々お世話になりました。何かまた機会があったら改めて、お手伝いさせて下さい」 ゆっくりとドアが閉じられる。 「──ちょい待った」 「はい?」 あくまでもナナミの方を向かず、鉄蔵は耳を真っ赤にしながら、言葉を続けた。 落ち着きなくその足首で貧乏揺すりをしている。 「いやー、ここ数日ワシ大変だったわぃー。誰か心を癒してくれるような人は心優しい人おらんかのー」 「……えーっと?」 「そ、そこでじゃ。よかったらなんじゃが、こっれかっら、このジジィとッとととトッ」 少し寂しげな笑顔を向けるナナミに前代未聞の要求が襲いかかる。 「当世風に言うと、そうじゃ、あれじゃ。でっ、なんじゃ。でー……んおっほん!! でぇと《デート》せんか!!」 これでもかと言わんばかりのどや顔を決めながら、国守鉄蔵が壊れた。 「──ごふっ、かふっ、ゴホゴホッ!! カーッ!! んぐッ……」 「……あの……お爺ちゃん汚い」 あまりにも突拍子もない展開に、ナナミは返事をする間もなくツッコミを入れてしまった。 鉄蔵の肩からは何時もの雑嚢《ざつのう》と大型の水筒がいくつがぶら下げられていた。 愛用の雑嚢には、はちきれんばかりの数のアルミホイルに包まれたおにぎりと思われる物体が詰め込まれており、 鉄蔵がざくざくと大きく足音を鳴らす度にこぼれ落ちそうな程だった。 「ンンォッホン。アレはアレじゃ。要するに用はアレアレ。 一緒に花見でもせんかと言うお誘いのつもりで言ったんじゃ。 決して疚しい気持ちなんぞ持ち合わせとらんぞ!!ほんとじゃぞ!!」 「バウフフフ……」 口から泡をとばしながら、鉄蔵は言い訳を重ねるが、それを見つめるケンゾーの口元は心なしか不気味に笑っていた。 まだ若干、鉄蔵の頬は赤みを残しており、先ほどから同じ内容の話を壊れたファー○"ー人形のように繰り返し聞かせていたが、 それも鉄蔵の照れ隠しなのであろうとナナミは思った。 そう考えると、なんだかもっとずっと、長い間過ごしてきた祖父のように親しみを持てそうな、そんな気持ちがナナミの心を満たした。 そうやって足早に進む鉄蔵の後についていくと、あの咲かない桜がある公園にたどり着く。 「ここで、お花見……ですか?」 「そうじゃ、もう既に特等席は確保しとるんじゃよ?」 鉄蔵は明らかに、あの咲く事ができなかった桜のある公園の一角を目指している。 ナナミは、小石と土と靴の音が擦りあって鳴る音を止めると、一人で言い訳を振りまきながら前進する鉄蔵の背中を見つめた。 「……どうして?」 (用務員のお爺さんなりにナナミちゃんの心配をして、元気付けようとしてくれてるんだと思うんだけど) 「ティル……そうなのかな」 鞄から顔を覗かせるオコジョの意見を聞きながら、鉄蔵の後を小走りで追いかけ、目的の場所に到着した。 桜の木の下には、ブルーシートが引かれており、 既に見知らぬ年上の学生達がいたのだが、鉄蔵は遠慮なくそこに荷物を下ろすとナナミに一言。 危ないからちょっとだけ離れて見ててくれないかと告げる。 ナナミは鞄を両手に抱えると今から何が始まるのか、得も言われぬ不思議な気持ちで胸が膨らんだ。 鉄蔵は器用に木をよじ登り、最も高い場所に有り、安定している枝を足場に選んで幹に手をかけると、 ナナミとは丁度反対側にあたる木の裏にいる青年に向けて声を上げた。 「あー。すまん、龍ちゃん。 手筈通りにそれをこっちに投げてよこしてくれィ、どんどん投げてくれちゃって構わんぞィ」 「なんつー人使いの荒い爺さんだ本当に……よっと!!」 龍ちゃんと呼ばれた青年は鉄蔵に促され、 大風呂敷に包まれた何かを桜の木の上にいる鉄蔵に投げつけると鉄蔵はそれをすくうように拾いあげる。 「こういった力仕事はドラの方が向いてるからな。 俺は割と良い人選だと思うぞ。あー、あんまり急いで投げすぎるなよ」 「ってかニヤニヤ笑ってないで、トラも手伝えっつーの……おらよっと!!」 「力仕事は俺の領分じゃないしな。ほら、もこが応援してくれてるだろ。しゃきしゃき仕事しろ」 「今日の為に沢山お弁当を拵《こしら》えてきました。 これが終わったら皆さんで一緒にお昼にしましょう、龍様!! 頑張って下さい!!」 「投げすぎるなとか、しゃきしゃき仕事しろとかどうしろっつーんだ、おい……」 桜の上で手招きをしながら構えている鉄蔵に大風呂敷を放り続ける青年を錦龍《にしき りゅう》。 その横で応援し続ける、青年と少女の名を中島虎二《なかじま とらじ》と、豊川模湖《とよかわ もこ》と言う。 ある事件をきっかけに、鉄蔵と知り合う事になり、度々学園で顔を合わせては、 鉄蔵は教職員用のモバイル端末を珍しがる彼らから、その使い方の説明を受けている。 端末の持ち主であるはずの鉄蔵は、仕事で使う工業用機械の操作以外には明るくない為、 モバイル端末の基本的な操作方法など、一から彼らに教えてもらう事が多かった。 鉄蔵は二日前、『確実に咲く事が無い、桜の咲かせ方』について相談した。 確実に咲かないのなら、絶対に咲かせれば良い。 中島虎二はその時、意味ありげに笑うと、鉄蔵に自分の考えを述べたのだ。 「咲かぬなら、咲かせて見せよ、その桜ってか。 まぁ、咲かせるのは俺じゃなく国守爺さんだけどな」 桜の木の上で幾つもの大風呂敷を積み上げ終えた鉄蔵を三人は不安げに見つめる。 鉄蔵はナナミと視線を合わせると、公園の隅から隅までに響きわたりそうな大声で叫ぶ。 「相沢ナナミちゃんよ。この桜もお嬢ちゃんが頑張ってくれた事は絶対に解ってくれておるハズじゃ。 それはワシが保証する。この桜の周りをよぉっく見てみぃ。お嬢ちゃんの頑張りが一目で解るじゃろ?」 桜の枝に足をかけ、更に延び分かれた枝を掴み体を支え、鉄蔵はナナミの努力を、賞賛する。 「見りゃ解る、見れば解るんじゃ。 どれだけ嬢ちゃんがこの島の中にある、この一つの桜を咲かせようと、努力をしてきたのか。 この双葉島にある桜達も知っておる。お嬢ちゃんが頑張ってきた事を、よく解ってくれてるハズじゃよ」 「用務員のお爺ちゃん……」 「ワシに上手く出来るか解らん……しかし、仮初めでも、こいつを咲かせてやれりゃ、少しは元気になってくれんかの」 鉄蔵は足下にある大風呂敷の結び目を解き、中に入っている物を確かめると、それを手に取る。 「天衣無縫の桜の精よ、この国の防人の願いを、天世《あまよ》に在る桜の御霊に届けておくれ」 鉄蔵が言い終えると、決して咲くことの無かった桜を、桜の花びらが覆った。 その桜吹雪の最も密度の高い場所には鉄蔵の姿がある。 春風は桜を中心に吹き上げ、鉄蔵の手助けをすると、春の日差しがそれを照らし幻想的な風景はより栄える。 今この瞬間だけは、力強く咲き誇る一本の桜として、その桜は咲いていた。間違いなく、咲いていたのだ。 舞い上がった桜の花びらのうちの一つが、ナナミの手のひらの上にふわりと落ちる。 ナナミはそれを見つめ、顔を上げて微笑むと、直ぐに駆け出し、木の上にいる鉄蔵に向かって声を上げた。 「あの!! 私も手伝いますっ!!」 言うが早いか、ナナミは不器用に桜の幹に上る。 鉄蔵はナナミの手を引き上げ、その手に桜の花びらを握らせると歯を見せて笑う。 それにつられ、ナナミも満面の笑みを浮かべると、鉄蔵と共に桜の花びらを辺りに振りまいた。 その桜を見上げる中で、龍は虎二に呟いた。 「……今、見えそうで危なかったと思うんだが、見えたか」 「──ノーコメントだな。ドラ、それよりも、後ろ」 「後ろがどうし……って、いや、違うんだ、もこ。これは危ないから安全面を考慮した上でだな」 鬼の形相を浮かべた豊川模湖が錦龍に詰めよると、怒りを露わにする。 「龍様。無防備な女子の下着を盗み見るといった行為は、あまり誉められる趣味と思えないのですが」 「そ、そうだな。俺もそう思う。 そう思うからとりあえず、その鬼火は消してくんねーかな? ちょっと危ないぞうぉおおお!!?」 龍の顔は青醒めさせ後ずさると、桜の花びらの中を全速力で走り始め、もこと熾烈な鬼ごっこに興じた。 その脇では地上に置かれたナナミの鞄からシルバーティルが這い出てくると、それを鉄蔵の飼い犬のケンゾーが見つめていた。 ケンゾーはその口から、だらしなく涎を漏らす姿は、先の龍と模湖の再演を演じる役者にも見える。 (や、やぁ! 僕は悪いラルヴァじゃないよ!! いじめないで) 「……バウフフフ」 (ちょ、ちょっと。君も冷静になろう、ウェイト、シットダウン!! ひぇー!! ナナミちゃん助けてー!!) その風景の中心で、桜の花びらを振りまきながら、相沢ナナミは考える。 咲いている桜も、咲かなかった桜も長い時を経て、育ってきた。 この桜は咲くことは出来なかったかもしれないが、今まで多くの人達に満開の花を魅せてきたのだろう。 もしかすると、これから自分が出来る事は、この桜がしてきたような、多くの人達の笑顔を作り上げる事なのかもしれないな、と。 トップに戻る 作品保管庫に戻る